ブラック企業が生まれる原因とは何なのか?

何かと巷騒がすブラック企業問題ですが、最近では電通、NHKでの長時間労働による自殺や過労死などが記憶に新しいところです。

また、残業代未払いや上司の部下に対するパワハラ行為も目立っているところです。

 

 

 

しかし、なぜ「ブラック企業」というものが生まれるのでしょうか?

ブラック企業に対する対策としてよく聞く意見にこういったものがあります。

「辞めればいい」

「訴えればいい」

「雇用制度の問題」

といったものがあります。

ひどいになると「労働者が甘えているだけ」という意見も散見されます。

しかし、私にはこの対策は個人レベルの問題解決でしかなく、根本の原因は理解されていないように感じます。

私はこのブラック企業が生まれる原因の根本には、

デフレ経済とグローバリズム」が根本にあると考えています。

この記事ではブラック企業が生まれる原因と題して、この問題を考えてみたいと思います。

普通の企業が”ブラック企業”となる要件

ある企業がブラック企業と呼ばれる時に、付いて回る要素として以下のものがあります。

長時間労働

残業代未払い

パワハラ

低賃金

過労死

これらがブラック企業の要素となっています。

現状、ブラック企業の定義は曖昧なままですが、以上の条件をひとつあるいは複数満たしていれば、ブラック企業と概ね社会的に認定されるようです。

一番大きい要素はやはり、「賃金に関すること」ではないかと思います。

バブル期は現在とは違い、需要が供給を上回っていた時代ですから企業が設備投資を行い売上を上げるのと同時に従業員もフル稼働で働いていましたが賃金もしっかり上がっていたのです。

簡単に言えば、「貰えるものが貰えていたから問題として浮上しなかった」と言えなくもないのです。

いっぱい働いて、いっぱい給料を貰えれば長時間労働でも労働者としては、まだ許せるといったところでしょうか。

もちろん例外もあるでしょうが、労働者の精神状態としては健全な方と言えると思います。

労働者にとって賃金というものは良くも悪くも「自分の価値」という認識を抱きがちになります。

デフレ経済ほどこの傾向は顕著になるでしょう。

 

実際、人間の価値は紙切れの所有の多寡ではないと思いますが、お金に関することが夫婦喧嘩の一番の理由と考えてみれば、ある程度納得します。

キーエンスという企業が基本はブラックだけど給料がホワイトということで、問題として取り上げられていない節があります。

キーエンスは「基本ブラック、給料はホワイト」 パワハラ被害退職者が告発する“アメとムチ”

まして、現代はデフレというお金の価値が高い経済環境ですからお金を多く稼げない自分は負け組という認識もしてしまうことと思います。

其の上、メディアではいわゆる勝ち組の人間の生活を企画してみたり、逆に若者の貧困問題なんかも取り上げるので、益々、彼らの自尊心は傷つくことでしょう。

つまり、労働者は「自分という存在価値を賃金という指標で判定する」ということです。

数字ですからわかりやすいということもあり、どうしてもこう思ってしまうのは仕方ないことと思います。

どれだけ長時間働いても、どれだけ前向きに仕事に従事しても、また実績を残したとしても、給料は増えず、増えても「寸志」程度であれば、労働者は「疲弊」することになります。

労働は時間を売りながら自分の身体と精神を削って生きる糧(所得)を得る活動です。

ブラック企業問題の本質には、労働者が提供するものと、それに対する企業が対価として支払うもののバランスが大きく傾いているといういうことがあるのです。

なぜ、企業は”ブラック”になるのか?

表面的なことを言えば、まず、「人件費の削減」です。

人件費の削減のみならず、幅広く「コストカット」を推めました。

企業の光熱費や備品、下請け企業に発注する料金交渉など、常に、「安く、安く」というインセンティブが生まれ、その空気が社会全体を包んだのです。

こうなれば、しわ寄せはどこに行くのかと考えたら、大抵の場合、「末端」に行くのです。

ヤマト運輸の長時間労働でもそうでしたが、ドライバーの疲弊が取り上げられました。

安く、安くとなり、利益を増やしづらくなった企業は生き残りを懸け、「安くて良い」をキャッチコピーに差別化、競争戦略という名の「過剰サービス競争」が始まったのです。

「うちは他社よりも安くしますよ」、「じゃあうちはもっと安くします」、「じゃあうちはこんなサービスも付けます」とこんな具合になっていきました。

正に「買い手市場」です。

買い手は、徐々に高圧的になり犯罪行為も強要するようになります。

例えば、下請け企業が元請業者の担当者から裏金を作るように言われるいわゆる「水増し請求」です。

恐らく以下のような会話が行われていたのでしょう。

元請業者担当者A
「今回、多めに発注するから余分な分は一旦現金でうちに返して欲しいんだよね」 

下請け業者B
「えっ?いつもの100の発注を120にして、20の分を現金でAさんに渡せば良いんですか?」

元請業者担当者A
「そうそう。うちも独立採算制だからさ~、節税対策(適当な理由)ってことで上からコストカットの圧かけられてんだよね。ほんと申し訳ないけどお願いしますわ」
下請け業者B
「そうですか。でもそれって違法行為なんじゃ…」
元請業者担当者A
「じゃあBさんには頼まないわ。他にやってくれるとこあるし。Cさんのとこは毎回色々お願いさせてもらって融通がきくから助かってんだよね~。今後はCさんのとこがメインになるかもって上も言ってましたわ。」
下請け業者B
「(うっ…今仕事切られてもまずいなここは、我慢しとくか)Cさんとこがやるならうちもやりますよ!今後ともよろしくお願いします!」
元請業者担当者A
「Bさんありがとう!ホントに助かるわ~今後とも宜しくね!」 

 

 

下請け法4条2項3号違反となります。

こんなやり取りがあったのは想像に難しくはないですし、私の経験上よくありました。

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話を人件費削減に戻すと、企業が「安さ」を求めた結果、末端に負担が行ったのです。

しかし、なぜ企業は人件費削減、コストカットをしなくてはならなかったのでしょうか?

そこに大きな原因があると私は思っています。

一番大きな原因は「デフレ」です。

供給過剰という経済環境ですのでどうしても買い手市場になります。

企業としては、バブル期までのように簡単に儲からなくなってしまったのです。

儲からないということは「利益が出ない」ということです。

売上を上げることが難しいという状態で利益を確保しなければならないという事情が発生した企業が行うことは、「経費削減」しかありません。

そこで設備投資という話にはまずならないでしょう。

この先儲かると経営者が判断しなければ、設備投資、人材開発投資、技術開発投資などされるはずがありません。

こうした事情で企業は銀行からの融資を必要としなくなりました。銀行が国債ばっかり買うようになったのは企業が融資を受けなくなり、運用先に国債を選ばざるを得なくなったからです。

そして、一番簡単なコストカットは「人件費」なのです。

非正規雇用を増やしたり業務のアウトソーシングを増やしたり正社員に早期退職制度を推奨したりと、やり方は多様にあります。

企業は人件費にかかる固定費、つまり「基本給」を上げないように努力せざるを得なくなります。

給料に歩合制を導入し、歩合のシェアを高めに設定することで給料に反映されるようにしておけば売上と賃金がある程度比例する方向に近づくので、企業は人件費に対する損失を減らすことができます。

売上が上がらないのであれば、コストカットで何とかしようと企業は考えたのです。

そして、使えるものは最大限に使って売上を確保しようというインセンティブが働いたのです。

もちろん、失業率は高かったわけですから潰れた従業員の代わりなどいくらでもいるという発想になっています。

要は「従業員使い捨て」の発想で、企業は利益を確保しなければ立ち行かないという環境になったのです。

その状態が20年以上続き「常態化」し、企業はコストカットをすることが効率的だから当然で、労働者の賃金が低いのは「自己責任」というように、労働者に責任を押し付けたのです。

更に、労働組合が仕事をろくにしなかったということも挙げられます。組合貴族が企業とくっついてしまった可能性は大いにあります。

このように大元の原因は「デフレ」にあります。

ふたつめの原因は「新自由主義的なグローバリズム」でしょう。

グローバリズムによる資本移動の自由化によって企業は「短期主義」になりました。

東芝の粉飾決算問題でも上がっていましたが、「当期利益至上主義」がもたらした結果なのです。

短期で成果を上げるとなれば、成果を上げなければと従業員の不正も横行しがちになります。

更に、一般研修制度による「外国人労働者」を低賃金で企業が雇用するようになりました。

外国人労働者としては、母国よりも高賃金の為に嬉しいことかもしれませんが、その分、日本人の雇用は悪化します。

日本人が日本人の思う「普通の生活」を実現するためには、低賃金ではやっていけませんとなりますが、企業としては安く働いてくれる労働者がいるからそっちを使うという至極当然の判断をせざるを得ません。

グローバリゼーションによって、安い賃金で生産する為に、企業が各国を自由に選ぶ、「底辺への競争」が始まったのです。

資本移動の自由ということで、海外、主に発展途上国への投資をすることで企業は安い賃金(経費)で生産ができ、さらに、利益はタックスヘイブンへの送金で”脱税”対策をするということになれば、日本人が普通と思っていた労働環境は悪化して当然です。

資本移動の自由に関連しますが、外資が日本企業の株式を買うことが出来るということは、外資が日本企業を支配できるということです。当然、技術の流出も発生します。

当然外資は、「株主資本主義」の名の下、株主利益を最大限に追求します。

所有と経営の分離」という概念が「株主資本主義」を生み出したのです。

企業の所有権は株主にあるわけですから、株主は企業に対しコスト削減を強く要求します。

企業は、出資を引き上げられたくないとか、その時の経営者は、数年の自分の任期だけは結果を出せれば、その後は知らんというインセンティブが働くことになります。

そうすることでコストカットが現実に行われ、企業から人員削減で技術が流出し、従業員の賃金は上がらず、株主の配当だけが上がっていくのです。

そして株主達は、それまで出資していた企業が儲からないとなれば出資を引き上げ、次の投資先に資金を移します。

その頃の企業はもう再生不可能というぐらいまで、疲弊していることでしょう。

現代のグローバル投資家というのはまるで企業に巣食う寄生虫です。

したがって、デフレとグローバリゼーションという原因によってブラック企業が生産されるということです。

少なくとも可能性は否定できません。

グローバリゼーションの弊害等についてはこのブログでも書いていおりますし、識者にもマイノリティのようですが素晴らしい方々がいらっしゃいますので、その方々の著書なり情報なりを確認していただけばと思います。

グローバリズムに懐疑的な識者は限られておりますので読者もご存知かと思います。

まとめ

個人レベルでの対策としては、ブラック企業に対し、労働者はもっと怒っていいと思いますし、録音、他の従業員への根回し、団結、証拠保全、弁護士の利用などある意味簡単にブラック企業を追求することができます。そのブラック企業の取引先や出資者などもチェックしておくと良いでしょう。

逆にブラック企業に狙いを定めて就職し、証拠集めをして機を観て訴えまくればそこそこ良いお金にはなるんじゃないでしょうか。

なにせ、ブラック企業は簡単に雇いますし、人手不足の現状であれば尚更です。

社会全体としてブラック企業を失くすには、一朝一夕では出来ないので、経営者が「これから儲かる」「景気が良くなる」「需要が増えていく」と判断できる下地が必要です。

デフレである限り経営者がその発想に至ることは非常に稀です。現在、一部業界では供給力不足によってインフレ傾向にありますが、それはほんの全体の一部です。

したがって、今後継続的に需要が増えると経営者が判断すれば良いわけですから、行うべきことはインフレターゲットを設定した上での、「財政拡大」です。

デフレである限り、民間は財布の紐を締めます。企業も銀行から融資を受けようとしません。儲かっても、この先どうなるかわからないから内部留保しておかなければ心配だとなってしまいます。

他の記事でも説明してはいますがデフレ脱却には政府の財政拡大が絶対条件です。

財務省が改心し、PB黒字化目標の破棄、国会議員が立ち上がらなければ財政拡大は不可能でしょうが…

毎度、結論が政治に関わることになってしまい恐縮ですが、それほど御上が行うことの影響は大きいのです。

企業の代表取締役社長が変われば体制も変わりますし、上の判断が下に大きく影響するということはイメージし易いでしょう。

政治家があなたに理解しづらい言葉を使うのは政治に興味を持ってもらいたくないからです。

メディアが情報操作、偏向報道を行うのは、あなたを誘導したいからです。

多くの日本国民が政治に興味を示さないのは、アメリカが施した占領政策、それに乗っかった日本政府の戦後教育の賜物です。

政策として、大衆に政治について教育しないということは、為政者はそれほどまでに重要視しているということです。

アリストテレスが言うように、人間は”政治的な生き物”だということなのでしょう。

ブラック企業とデフレ、グローバリズムに関係がないとは言い切れません。

先日、これらのことをプライベートで経産省の官僚をしている友人と話してみましたが、彼らからしてみれば、「あり得ない」、「関係ない」ということでした。

関係ないことの根拠は特に明示していただけませんでした。

本当に関係ないのでしょうか?

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