所有と経営の分離という言葉はビジネスマンでは
知らない人はいないと言っていいぐらいに有名な言葉になりました。
今日では、この所有と経営の分離というシステム、習慣が当然であるという認識となっています。
しかし、この考え方が現在の企業の質を落とし、雇用されている人の生活を脅かし、引いては社会全体にも悪影響を及ぼしています。
この記事では企業の経営に携わる方やそれに準じた仕事をしている方に、
ぜひ一度「企業のあり方」というものを考えていただきたいとの思いで書かせていただきます。
株主は企業を収益装置と判断している
そもそも所有と経営の分離とは何でしょうか?
株式会社に限って説明すれば、
「株式会社は株主のものであり、経営者は株主から委任された経営のプロである」
といったイメージです。
この考え方を前提とすると、企業は株主の”利益の為”に企業活動をするべきであるということになります。
株主の方から見れば企業は単なる「収益装置」でしかないという意味ともなります。
これは一見、当然のように感じるかと思いますが、
企業の役割とは「株主の利益を上げるためだけ」ではありません。
また企業という組織は利益集団であることも間違いありません。
しかし、社会の公器でもある企業が「株主利益のみを追求する」ことで社会に多大な影響を与えるのです。
中小零細の企業であれば、経営者と株主が同じということはよくあることですが、上場している企業はそうはなりません。
一株式市場に上場している企業には当然ですが株式の譲渡制限がありません。
(通常は譲渡制限がついている)
現在はインターネットを介して株式の取引ができるので、証券会社に足を運ぶということもなくなりましたが、株式投資をする者の意識は、バーチャルな数字上の賭博という感覚になっているのが現状です。
つまり、企業投資に人間関係上の要素がなくなったのです。
当然、投資あるいは値上がり益を目的とする投機ですから、利益を目的とすることが悪いわけではありませんが、「株主は利益が出ないとわかれば逃げられる」ことがひとつのポイントとなるのです。
株主の行動と企業の行動
企業と株主の関係は「金を出す者」と「利益を出す物」に分けられます。
株主は出資した資本(お金や現物)が出した金額よりも多くなることを望みます。
株主の方は、投資利益を目的とするのが通常なので当然、総会屋がいなくなった昨今では、株主は企業(経営者)に「より多くの利益を生むこと」を株主総会等で圧力を掛けるようになります。
一方の企業側は出資を引き上げられては困るという意識や、株価が下がるという意識、あるいは自己の保身などの理由から株主の要求を受け入れざるを得なくなります。
となれば、経営陣は利益を生むことが目的となるのは想像に難しくないと思いますが、その手段は基本的に以下のような手法です。
「コストカット」
「自己株式の取得」
コストカットは具体的にはまず人件費の削減です。
一般的な施策は正規社員をカットして非正規を増やしたり、
一部の業務をアウトソーシングしたり、オフショアリングしてみたりといった手法が使われます。
自己株式の取得とは企業が自社の株式を市場から取得することです。
この効果は、経営の安定化と株価の上昇を促す効果があります。
数字上の、いわばモノサシを変えるような手法なので根本的な解決にはなりません。
逆に株主の圧力を受けた経営陣が”やらないこと”はなんでしょうか?
それは、
「中長期的な投資」
になります。
と言うよりならざるを得ないのです。
中長期的な投資というのは具体的には「研究開発」や「人材開発」が主で、私としては人件費に充てる費用も中長期的な投資であると考えていますが、これらは基本的に「利益を圧迫」するので採用されません。
代表取締役を含めた取締役などの役員には「任期」というものがあります。通常、取締役の任期は2年です。
自分の請け負っている期間の任期中に「この会社はダメになった」「無能」などといった評価を世間から下されることはその経営者にとっては都合が悪いことでしょう。
このような経過を経て、企業は短期の利益を追求していくと、四半期ベースで利益を追求するようになります。
「当期利益至上主義」という姿勢が組織全体に拡がり、東芝の不適切会計と言われていた粉飾決算にまで繋がっていくのです。
雇用されている従業員は、上司から執拗に売上アップの圧力を受けることになります。
簡単に言えば厳しいノルマを課せられ、上手くやることと、不正の境界がぼやけていってしまうのです。
社会への影響は?
まず一義的には企業のコストカットの施策により失業率は上がることでしょう。
コストカットの要請から派遣労働者の需要が増え非正規労働者が増えます。
非正規であれば結婚して子供を作ろうとか更には結婚すら諦めてしまう人が非常に多いのです。
子供が少なくなれば数年後の働き手は必ず減っていきます。
ご存知の通り、少子高齢化により、生産年齢人口が総人口に対して60%となっています。
なので人手不足の時代は必ずやってきますし、医療、介護、建設、運送などの業界では人手不足が顕著になっているところです。
第二に、中長期の投資が抑制されることによって需要が増えないことでデフレが継続されてしまうことです。
96年以降民間企業設備はほぼ横ばいとなっていますので、いかに企業が設備投資を増やさなかったかが明確になります。
しかし、企業としては儲かるから投資をするのであって儲からないという見通しを抱いた場合設備投資が増えるわけもありません。
まして株主からコストカットを要求されればこの結果は当然の帰結ということになります。
そうなることで、格差が拡大し資本家(株主)とその他の人間に対立を発生させてしまうということです。
その対立は、国境を越え、いずれは国家間、民族間への対立となり、1%の強欲な資本家と99%の一般人という構図でエスカレートされるのです。
所有と経営の分離の結果
結局、企業は中長期的な発展を目指すことができなくなり、またその経営方針も定められなくなり、短期的な株価の上昇や配当を目当てとする不特定多数の投資家との利害が対立してしまうのです。
経営者側は対立を恐れ、株主の言うがままとなり、社会全体への影響を考えず、資本家の「今だけ、金だけ、自分だけ」といった思想に流されてしまうのです。
株式市場に上場するとはこういった結果をもたらす場合もあるので、
従業員を本当の家族と考えている経営者は注意していただきたいと思います。