ヤマトHDとラクスルの資本提携の未来

7月にヤマトHDとラクスル社が、オープン型プラットホームの構築を目指し、資本提携を行うといった報道がありました。

http://www.logi-today.com/294343

ドライバーの不足や高齢化が叫ばれる運送業界ですが、果たしてこの資本提携が”希望の光”となるのでしょうか。

この記事ではその辺りを考えてみます。

資本提携とは何なのか?

資本提携というのは一言で言えば「資本参加を伴う業務提携」のことになります。

資本提携のメリットとしては、単なる業務提携とは異なり、資本関係を結ぶことによって、経営に参画してもらったり、財務面での支援などより強力な関係を築くことができます。

これは、広い意味でのM&Aと言えます。

通常の業務提携では、契約のみで行えるので、極端な話、相手の一方や双方に業務提携のメリットが無くなったと判断すれば、解消することは資本提携に比べ容易となります。

しかし、資本提携となれば「一緒にお金を出し合おう」ということなので、言わば運命共同体という見方になるので、より強力な関係が築けるというのはそういうことなのです。

対してデメリットはどうなのかと言えばもちろんあります。

と言うより、気をつけなければいけないことがあります。

経営面や財務面で参画、支援をするということになれば、当然情報開示や機密情報の開示も互いにしなければならなくなりますので、互いの「出資比率」が問題となります。

出資比率によって行使できる権利が変わります。

それは会社法に規定されています。

要はどれだけ株式を持っているかで支配力が変わるということです。

 

ヤマトHD、ラクスルの株主構成

ヤマトHDは上場している企業ですので株主は日々入れ替わりますが、ヤマトHDのIRでは以下のような株主構成であるとしています。

ヤマトHD IR

一方のラクスル社は以下の通りです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■既存株主

・株式会社オプト(本社:東京都千代田区、代表取締役CEO:鉢嶺登)

・グローバル・ブレイン株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:百合本安彦)

・WiL, LLC.(本社:米国カリフォルニア州パロアルト、Co-Founder CEO:伊佐山元)

・伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:安達俊久)

・ANRI(本社:東京都世田谷区、General Partner:佐俣アンリ)

・株式会社電通デジタル・ホールディングス(本社:東京都港区、代表取締役社長:遠谷信幸)

・GMO VenturePartners株式会社 (本社:東京都渋谷区、代表取締役:熊谷正寿)

第三者割当増資によって株式を取得した企業

■新規株主

・株式会社リンクアンドモチベーション(本社:東京都中央区、代表取締役会長:小笹芳央)

・グリーベンチャーズ株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:天野雄介)

・Global Catalyst Partners Japan(本社:米国カリフォルニア州パロアルトならびに東京都千代田区、Managing Principal and Co-founder:大澤弘治)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ラクスル社 ホームページ

ラクスル社は上場が囁かれていますが、現段階では上場していないので、株主の出資比率はわかりません。

未上場で総額100億円近い資金調達をしている企業ですから我が国の経済情勢から言えば、相当に異質な企業と言えます。

提供しているプリントサービスは非常に評判が良いですし、「低価格」という消費者の需要をIT技術によってうまく取り込めたのでしょう。

株主は何を求めるのか?

株主が求めるものは「利益」のみです。

今回の資本提携はオープン型プラットホームの構築と銘打っての資本提携ですが、この場合、

「利益」はどこに、あるいは誰に集中するのでしょうか?


上記が発表されたオープン型物流プラットホームのイメージです。

このイメージからわかるのは、「荷主のコスト低減」が中心であろうということです。

株主としてもそちらの方が良いと考えるでしょう。

オープン型プラットホームの構築によって荷主のコスト、納品先のコストの低減を目指すことで、現在の需要に対応するということです。

しかし、物流事業者のコストは恐らく考慮されていません。

第一、荷主の運賃コストを上げない、あるいは下げるという方向で仕組みを作れば、当然、物流事業者の業績は上がりません。

とは言えこのような反論があると思います。

「いやいや、待機時間を減らすことや配車手配の簡素化ができれば”量”をこなせて業績が上がるじゃないか」

確かにその通りではあります。

しかし、この反論の前提には「時間通りに到着できる」という前提があります。

地方であればそれほどでも無いかもしれませんが、我が国では「東京一極集中」が問題になっています。

東京の平日は必ずどこかで渋滞します。

原因は「信号」と「車の数」です。

一発事故でもあれば時間通りに納品できなくなる可能性もあるでしょう。

仮にこのオープン型物流プラットホームが構築されたとしても「道路を使って運ぶこと」は変わりません。

今まで存在した待機時間を解消して、その解消された時間に別の案件をこなすことができれば、生産性は向上することになるでしょうが、とは言え、カチカチにスケジュールを組まれた場合、ひとつの案件の遅延が全ての案件の遅延に繋がります。

恐らく、その時のドライバーの精神状態は非常に過酷なものとなるでしょう。

トイレもいけない、休憩も取れない、食事もできない、遅れるから客先で謝罪の繰り返しといった環境が発生する可能性は私はあると考えます。

そもそも、ヤマトHDはこれまで報道された一連の問題を解消する為に問題解決に乗り出したのではないのかと思ったのですが、この場合割を食うのは「ヤマトの社員ではない」ので余り考慮には入らないのかもしれません。

したがって、東京では現実問題として物流事業者のドライバー(主に個人事業主)の負担が大きくなる可能性が高いと考えられます。

バブル崩壊後デフレに陥った我が国は20年の歳月をかけてもデフレ脱却を達成できないその中で、ヤマト運輸が業界の先頭をきってサービスの細分化、商品の開発を従業員の犠牲の上で成り立たせてきたのです。

 

消費者としては「時間通りに必ず荷物が来るのが当たり前」となりました。

 

Amazonの件でデリバリープロバイダで荷物が到着しないと問題となりましたが、その時のツイッターを見てると到着するのがやはり当たり前という感覚になっています。

【届かない・・】Amazonでデリバリープロバイダを避けて配送してもらう方法について、どうしたら回避できる?

 

 

株主に話を戻せば、「外資」が入っている以上外資の株主資本主義的な経営にならざるを得ません。

またヤマトHDは先日残業代の未払いを解消すると発表し、実際に未払い分を支払ったようなので体力の消耗が明らかとなっています。

労働者はあくまでコストとなります。

仮にこれが実現したところで、ラクスルの従業員、ヤマトHDの従業員も別に賃金が上がるといったことも期待できないでしょう。

グローバル投資家はコストが上がることを「絶対悪」としていますので、むしろドライバーの運賃は下げられる可能性が高いです。

なぜなら、以下のような論理が成り立つからです。

新たに構築したプラットホームによって物流事業者の負担も減りこれまでよりも多く受注出来るようになったのだから、一件あたりの運賃は下げさせてもらう」

その時期のドライバーの人手不足の程度にもよりますが、至って自然な論理かと思います。

通常、案件が多ければインフレになる方向になりますが、個別のビジネス交渉では、単発じゃなくて定期なんだから運賃下げてと要求されることなど常識のはずです。

また、現在のハコベル(ラクスル社が提供しているサービス)案件には、下請法に違反している可能性が高いと思われるドライバーに対しての役務提供が確認されています。

但し、ハコベルというのは荷主とドライバーのマッチングサービスということになっていますので、私が確認した部分が下請法の適用がされるかは微妙なところです。

いわゆる”実態は”というやつなので、法には触れない可能性も十分にあります。

結局のところデフレである以上、どこかに負担が行き、その負担は下へ下へと行ってしまうのでしょう。

まとめ

ヤマトHDとラクスル社の資本提携によって、そのオープン型物流プラットホームと言われるものが構築され、それで社会の需要が満たされ、デフレ脱却に寄与し、供給側、需要側がある程度納得の行く結果になれば良いと私は思います。

しかし、コスト削減を荷主と納品先に謳っている以上それは実現しないでしょう。

我が国の経済成長率はこれまでずっと横ばいなので全体の需要は増えていないのです。

本質的には、また辛辣に表現すれば「負担を誰に押し付けるか」という対策になってしまうのではないかと思うのです。

その負担を請け負う者は、ドライバーしかできないこれまで努力しなかった人間なんだから仕方ないと「自己責任」で切り捨ててしまうのは、はっきり言えば誰でも出来ることです。

全体のパイを増やす=需要を増やす=誰かがいっぱい金を使うということをしなくては、これは繰り返されることでしょう。

もういい加減、誰かに負担を押し付けるとか自己責任という言葉の作り出す空気に思考停止させられては、”誰か”の思う壺です。

私個人の生活が全てならこういったことを書く必要もありませんが、私達人間は支え合って生きています。

誰かを切り捨てること、誰かの足を引っ張ること、誰かに負担を押し付けることは、回り回って結局自分を切り捨てることにいずれなってしまうのだと最近気付いて参りました。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で

グローバリズムカテゴリの最新記事