物流崩壊がもたらす運送業者と社会の行方


今や、ドライバーの人手不足が顕著となり、経済誌では大々的に「物流崩壊」と銘打たれたのも記憶に新しいところです。

こういったメディアは「崩壊」とかインパクトの強い言葉を使いがちですが、実際に何を以て崩壊とは定義していません。


既に崩壊しているという意見もあれば、AIが物流を担っていく為未来は明るいという意見もあります。

現実、物流が一切機能しなくなれば、人々の生活は成立しませんから、「道路がなくなった」とか「日本中のドライバーが0になった」とか極端なことが起きない限りとりあえず機能はするでしょう。



とは言え、ドライバー不足は非常に深刻且つ、荷主の意識は以前と変わらないままのようです。また運送業の経営者の意識にも問題がないとは言えないような状況です。


この記事では、荷主は今後の配送費用をどのように考えるべきで、一方の物流業者側もどのように考えるべきか、更に社会全体としてどのような方向に行くことでこれまでと変わりない豊かで便利な配送サービスを受けることが出来るのかなどを考えてみたいと思います。


運送業界が劣悪になった背景

運送業界、ひいてはドライバーの環境が劣悪になった背景というのは様々ありますが、概ね以下の点に絞られます。



バブル崩壊

規制緩和

緊縮財政によるデフレ経済の長期化

少子高齢化

運送業界のPR活動に対する意識の低さ



であると考えられます。


バブル崩壊 規制緩和 緊縮財政によるデフレ経済の長期化

まず、バブル崩壊はわかると思います。

それまで、社会全体が消費や投機に使いまくっていた状態から一変して「借金返済」の為にお金を使うことになってしまったわけですから、当然に消費や投資に回せるお金というものは少なくなります。

借金返済は消費や投資でもありません。

借金を返済すると「お金は消える」のです。




投資や消費に使えるお金が少なくなれば、大抵考えることは個人であれば「節約」であり、企業であれば「コスト削減」となります。




社会全体で観れば、バブル崩壊時には「需要が減少した」ということになります。

そこで物流業の規制緩和が行われました。

物流ウィークリーから引用


平成元(1989)年12月に成立公布され、翌年12月に施行された法律。貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法のふたつの法律で、通常「物流2法」と呼ぶ。昭和24(1949)年の通運事業法、昭和26(1951)年の道路運送法の成立以来、40年ぶりに規制緩和を軸に大改正された。貨物自動車運送事業法では、事業の免許制を許可制に、運賃の認可制を事前届出制に替えるなど経済規制の緩和を図った。半面、運行管理者の国家試験化など運送の安全確保を考慮して社会的規制の強化を図ったのが特徴。路線トラックが特別積み合わせ運送事業として一般貨物自動車運送事業に含まれ、従来の区域と路線の区別がなくなった。貨物運送取扱事業法では、輸送機関ごとの利用運送事業、運送取次事業を一本化して、取扱事業と実運送事業を明確に分けた。これにより、複数以上の輸送機関を利用する一貫輸送の料金設定が分かりやすくなった。



といったものですが、要はこの規制緩和によってどういう事態が発生したのかということです。

それが以下の4つです。


新規参入が増えて競争が激化したこと

全体の取扱貨物の量は増えていない競争激化の為に価格競争が始まった

生き残りのためのサービス競争が始まった

水屋と呼ばれる「利用運送業務」が拡がったこと



これで誰が得をしたのかと言うと、第一にコスト削減を達成できた「大手荷主」(個人も含む)、次に「大手運送業者」、その次に利用運送業者となります。



現在の荷主の運送業者に対するコスト削減要請はデフレが始まって以降現在まで継続中です。

運送サービスは「安くて良い品質」を提供できなければ生き残れないという土壌がバブル崩壊からの規制緩和とデフレとで醸成されてしまったといえます。

そこで、大手運送業者は今では「過剰サービス」とも言えるサービスを提供していったのです。

ヤマト運輸沿革



このヤマト運輸の沿革を見るとわかりますが、96年以降集中して新サービスが導入されています。96年にはいきなり365日営業に踏み切っていますし、翌年には「クロネコメール便」、更に翌年には「時間帯お届けサービス」が開始し、その後も見てみると、新サービスの開発には余念がありません。




この時期がデフレであったこともあり、また現在のヤマト運輸の消費者の信頼を見ると新サービスについて全て「安さと品質」が両立されていたと考えられます。

ご存知のとおり、「委託を含めドライバーの負担」はみるみるうちに増えていきました。



運送業の経営者の大多数は「値上げするのが怖い」と思っています。

契約を切られるんじゃないかとまず反射的に思ってしまうとのことです。

最近は大手の値上げもあったので少し加速しているようですが。




しかし、荷主のコスト削減要請は健在ですし荷主は安い業者を追い求めています。



新規参入した業者は、「安さ」を売りに既存の運送業者と競争を始めました。

デフレの影響で少しでもコストダウンをしたいという荷主の需要があったのです。

こうして価格競争が激烈になっていき、更に少しでも他社と差をつけるためには、本来ドライバーがやるべきではない荷主の要求を甘んじて受け入れる必要が出てきたのです。

例えば、倉庫の整理、積み下ろしなどの荷扱い等は、全て「無料サービス」という形で提供されてきたのです。

無料サービスと言ってもその運賃の中に含まれているということではあるのですが、それでは適正な運賃とはならなかったのです。




更に、「利用運送」という業者の存在がデフレに拍車をかけたようです。

この利用運送というのは一言で言えば、荷主と運送業者の仲介屋です。

私は利用運送そのものを批判するつもりはありません。

この利用運送は、運送会社としては営業に掛けるコストを省くことができるので運送会社にとっては非常に有益と言える側面があるのです。

但し、「全体の需要が増えている時」です。





荷主は、しっかり仕事をしてくれる運送業者を求めているので、利用運送業者という多くの運送業者を把握している存在はメリットとなります。荷主が一からその貨物に対して適切な運送業者、品質の良い運送業者を探すのは手間も時間もかかってしまいます。

そのような事情があるので荷主からすると利用運送業者はメリットはあるのです。

運送業者からしてみても、荷主獲得のための営業活動や最近では請求書を挙げなくても良いITを駆使した利用運送もあるので、それに対するコストを減らすことができますからメリットはあるのです。

このように利用運送という業種それ自体が悪ということではないのです。



では何が問題だったのか?



先程も書きましたが、「全体の需要がない時」に行い、それも大量の利用運送業者が乱立すれば以下のことが発生します。


荷主の提示する金額は利用運送業者がいなくても変わらないので、運送業者の取り分はますます減少する

利用運送業者の中抜き金額の多寡

荷主が直接運送業者に指示を出す



まずこういったことが起こります。

ひとつめについては、説明は最早必要ないかもしれませんが目の前にいる荷主も下請けの場合もよくあるのです。

その一次二次の下請けから降りてきた案件は一社を通すごとに中抜き、要は「ピンハネ」されていきます。




末端の運送業者、さらにその末端のドライバーには僅かのお金しか残らなくなります。

でも、デフレで仕事も取ってこれないからどうしても仕事が欲しいという背景があれば、無理をせざるを得なくなってしまうのもまた自然なことでしょう。



利用運送業者が乱立することで更なる価格競争が始まりました。

利用運送業者同士で価格競争が始まれば、運送業者に流れてくる仕事はそれまでよりもさらに安い仕事となるのは必然です。

また、これもよく聞く話ですが、いざ利用運送業者の仕事を介して仕事を受けた運送業者のドライバーが現場に着くと、「話が違う」ということや現場の担当者が直接指示を出し、雑務等を指示されるといったことが頻発していたのです。

「話が違う」というのは、例えば、着者時間や積む貨物の量や、余計な仕事をやらされるとかそういった類のことです。

荷主側も運送業者の足元を見て無理な要求をしていたのでしょう。

「仕事が欲しい運送業者はいくらでもいる」という事情から荷主が高圧的な態度に出てしまったというケースもあったのです。






利用運送は社会全体に需要があり、ドライバー不足という供給が少ない状態では運賃の「値上げ」競争に寄与しますし、運送会社側の手間も省け省けた分を他の業務に人を回すこともできるので社会の需要に応えやすくなります。


少子高齢化

このような背景が前提にあり、極めつけに少子高齢化問題が20年ほど放置されたので現在のような事態になってしまいました。

キツい、休憩は取れない、時間に負われる、給料が低い、このような環境の業種が人気になるはずはありません。

ただでさえ、労働参加する若人が少ないのに、この環境で人が集まるとの期待は一切できません。





更に、高齢化という問題がありますから既にドライバーがいないのに、ドライバーが引退するという事態も同時に起こっています。

総人口と生産年齢人口の比較を観れば一目瞭然ですが、一言で言えば「出て行く人は多く、入ってくる人は少ない」という状況になっています。

人気のない業種から、その問題はフォーカスされていき現在は、運送業をはじめ建設業、介護、医療という形になっています。


運送業界のPR活動に対する意識

これまで大手の運送業界は「健全、品質の良さ、安さ、安全」といった広告を打っていました。

しかし、広告、PRについて、更にロビー活動についてはほぼほぼ行っていなかったのではないかという節があります。

最近では、ドライバーにスポットを当てる映画や小規模ドラマが作られています。



 

 

効果の程はまだわかりませんが、元々PRというものは時間のかかるものです。

しかし、こういった姿勢が大事だと思うのです。




少しでも社会に知ってもらい、ひとりひとりに「自分の生活は運送業界があるから成り立っている」という意識を持ってもらうには、地道にこのようなPRを行い、PRに莫大な投資をするしか実現できません。

私達の周りにあるもので、生産から一切の「運送サービス」を経ずに手元にあるものは全くと言っていいほど無いはずです。

私は情報操作をしろというのではありませんが、業界のPRは常に行うべきだと考えています。




このブログでもよくこの手の話題に触れますが「情報」ひとつで戦争まで起こせる程の威力を持っているのが「情報操作」「プロパガンダ」「PR」なのですから、目的が公共の利益に資するものであればいくらやっても良いのです。

因みに公共の利益というのは、「コストが安くなること」ではありません。

各業種の「売上が増える」ことです。

コストカットで利益を出すなど申し訳ないですが誰でも出来ることです。

そのコストカットをした分、社会全体の需要が減るのですから、公共の利益に資するとはならないのです。


その他に考えられる問題

コストカット」は社会現象とまでになりましたがこのコストカットの意識が需要を減らし、回り回って自分の首を絞めるという事態が現在の状況だと私は理解しています。

例えばメーカーがコストカットの為に原材料を在庫せず、無くなりそうになったら調達するといった、「ジャストインタイム」という生産システムがあります。



これは、生産する側からしてみれば在庫にかかるコストを削減できる非常に効率的な生産システムですが、この問題は「メーカーの自己中心的な考え」であるということです。

ジャストインタイム方式では延着は絶対に認められません。

延着して生産が止まれば止まった分のコストがかかるため、非常に過酷な配送日程を組まされます。



つまり、時間に全く余裕がないのです。

天候が悪かろうが、渋滞が起きようが、ドライバーには何の責任もない事情で延着することも認められないという契約が行われます。

また既に大半のトラックにはスピードリミッターが装備されているので急ごうにも急げず、また、4時間に1回30分の休憩が義務付けられている為に急ぎようがないということがあるのです。

その休憩時間を加味した時間設定にしていたとしても、常に「渋滞を考慮しない」という時間設定になっている場合がほとんどのように見受けられます。

これは末端の軽運送にもありますが、荷主が設定する時間設定というものは、グーグルマップ等のインターネットを使って、出発地から到着地の時間を出し、それに15分くらい余裕を持たした時間設定になっています。



しかしこれはまだ良い方です。




ギリギリの時間設定を組みその時間を厳守せよというのが未だ多く、延着した場合は運賃は出ないという契約方式が主流です。

そもそもですが、そんなに大事なものなら余裕をもって前日にでも納品すれば良いじゃないかという話になります。また、メーカーが自社でトラックを用意してやれば良いじゃないかという話にもなります。

それではコストがかかるから嫌だということで、下請けを使いこのような配送システムになってしまったということでしょう。

買い手市場というデフレ経済ではこのような「下請けイジメ」が横行します。



大手の下請いじめはいつまで続くのか?
 

 

運送業者は下請法、物流特殊指定の確認をすべき

現在、運送業界は人手不足という悩みを抱えていますが、それをメリットにする方法があります。

公正取引委員会の下請法、物流特殊指定を確認することです。

http://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.html

https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.files/buttokupanfu.pdf

この物流特殊指定というものは、物流業者に対する荷主の不誠実な対応を戒める目的で作られています。




これまで例に挙げた運送業者の過剰サービスはこの物流特殊指定に抵触する可能性が大いにあり、そのような取引を継続している運送業者がまだ大半かと思われ物流特殊指定(第1項第4号、6号)がよくあるケースのようです。




今後確実に、運賃は上昇していきます。

運ぶ人がいないならば、荷主は運賃を上げざるを得ません。

運送業者サイドは条件の良い荷主の仕事から請け負うことになります。逆に条件の悪い仕事は、どこの運送業者も請け負わないという事態が発生するでしょう。

これまで条件の悪い仕事でも受けてくれた運送業者はいなくなるのですから、荷主サイドは、エンドユーザーに対して値上げという選択か、条件の良い仕事と悪い仕事をパッケージして交渉するような運びになっていくと考えられます。



荷主と運送業者の交渉力が現在の情勢で逆転するのです。

これまでとは全く逆の状況です。




交渉力とは弁術のイメージが強いかと思いますが交渉力とは社会情勢でも大きく変わります。

この情勢を利用し、運送業者は多少苦しくても高賃金でドライバーを雇い供給力の確保をしていく必要があります。


更に物流に関する規制は今後強くなることが予想されます。

一部新技術による生産性向上のための規制緩和は行われていくでしょうが、運送業者はドライバーが少ないこの状況ではドライバーの確保に全力を尽くす以外になさそうです。


荷主がやるべきこと

一方の荷主サイドはこれまでとは同じ条件で仕事を請け負ってくれる運送業者がいなくなるという前提に立ち、早期に好条件を提示するべきです。

現状の運賃は徐々に上昇しているという段階ですが、荷主にしても運送業者を使わなければ自社の顧客にサービスを提供できません。

この段階で早めに運賃を上げて業者を確保しなければ、荷主のサービスが成り立たないという状況に追い込まれる可能性があります。



現段階で自ら運賃を上げて「下請け業者」ではなく「協力会社」という意識のもと互いに社会を支えるといった態度で業者にアプローチすれば運送業者はその荷主を大事にすることでしょう。

多少の情勢の変化があっても親身に協力してくれるようにコミュニケーションをとっていけば運送業者も協力的になるはずです。

外資はすでに行っています。

コストコは、高時給で従業員を確保する動きに出ています。

https://thepage.jp/detail/20160131-00000003-wordleaf

最近はAmazonも一部の地域で高時給のアルバイト募集をしています。




現在がインフレ気味にも拘らず賃金が上昇しないのは恐らく資本移動の自由がもたらしていると私は考えていますので今後も緩やかに運賃が上昇していく可能性が高いでしょう。

それでも運賃は必ず上がる傾向になるので手遅れになる前になんとかしなくてはということですね。


運送業者はドライバーの教育とPRに力を入れるべき

いくら情勢が運送業者にとって追い風だとしても、これまで荷主が配送業者に行ってきた過度な要求を運送業者側から突きつけるべきではありません。

俺達の業界は社会からいじめられてきたんだ!」と思う経営者の方も恐らく相当多いことでしょうが、やり返すような交渉をしてしまえばまた何らかの理由で情勢が変わった時に「やってやり返す」が繰り返されてしまいます。



それでは全くバブルの時と変わりませんので、ある意味今後の保険とした意味で荷主には強気に且つ協力的な態度で交渉に臨むことがベストと言えます。

また、運送業者はドライバーの教育にはより一層の教育投資が必要になります。




ドライバーの身だしなみや言葉遣い、ドライバーが社会を支えているといったマインドセット、運転中の他車への配慮等、社会の運送ドライバーに対するイメージを一新するまたとないチャンスでもあります。

それを業界が一丸となってPRし、運送業の社会的地位を上げていく運動が必要なのではと考えているところです。




ドライバー自身も経営者も自分の業種に関する政治の事柄に関心を持つべきだと私は考えます。

すでに結果は出ましたが、自己責任という新自由主義的な発想では、物流などの国民の安全保障に関わる業種は立ち行かなくなります。

道路の建設、燃料費、運賃、制度に関する政治問題はどの業種でもあります。

ドライバーの待遇は今後少しづつ良くなっていくようになるでしょう。



ドライバーはその中で少しでも自分を高め、ただこの仕事でお金を稼いでいるだけという認識ではなく誇りをもって仕事に取り組んでいっていただきたいと切に願っています。


まとめ

大分長文になってしまいました。

物流とは社会インフラですからお金があればどうにかなるというものではないのです。

経済の要素は「人、物、技術、資源、需要」です。

震災の時もそうでしたが、お金があってもどうにもならないことは我が国の国民は経験したはずです。

私達の生活を支える仕事は地味に写ってしまいますし、目立ちませんが、縁の下の力持ちとは正にこのような業種です。

全て業種に感謝したいと心から感じます。

参考:http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/document/2009/200886/04.pdf

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