政府が金を使わないで誰が使うのか?

デフレが深刻化しており今なおデフレ継続中の我が国ですが、いつになればデフレ脱却を果たせるのでしょうか?

直近のインフレ率はマイナス0.5%となっています。

デフレは貨幣現象であり、量的緩和などの金融政策をすればデフレ脱却できるはずだったのに…

日銀の目論見では、量的緩和をすればインフレ期待が高まって、民間が消費や投資をするようになれば、インフレ率も上がるといった仮説でしたが、実際にはこの結果でした。

巷でもまだ「金を刷ればデフレ脱却できる」と主張する人は多くいます。

しかし、よくよく考えてみてください。

確かに、量的緩和政策以前は、市中の貨幣供給は少なかったでしょうが、市中に出回る貨幣の量が単純に増えたからと言って、インフレ率まで上がるとなぜ言い切れるのでしょうか?

量的緩和の仕組み

金融政策のひとつである量的緩和政策は具体的にどのようなことが行われるのかご存知でしょうか?

金を刷る」というイメージのみ先行しているようですので一応解説します。

簡単に言えば、

「日本銀行が市中に出回る国債を買い取り、各銀行の持つ日銀当座預金の残高を増やす」

ということです。

日本政府は国債を発行しています。

国債とは、政府に対する借用証書のようなもので、例えばあなたが100万円分の国債を買ったとしたら、あなたは「政府に100万円を貸している」という状態になります。

あなたが債権者で政府が債務者という関係です。

現在の日本国債は、100%自国通貨建てです。

自国通貨建てとは外国通貨1単位に対して、自国通貨がいくらになるかということです。

そのため円相場で1ドル~円と表されます。

日本国債の保有者はアベノミクスによる量的緩和が行わる前は、民間銀行、年金基金、保険会社などが多くを占めていました。

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日本国債所有者別内訳(15年12月末速報値、単位:兆円)出所:日本銀行「資金循環」

ところが量的緩和以降、日本銀行が保有している国債の比率はみるみるうちに上がっていっています。

これは日本銀行が市中の国債を買い取ったからです。

因みに日本銀行は日本政府の子会社です。

つまり日銀が持っている国債の分だけ、実質的に政府の負債(いわゆる国の借金)は消えています。

各銀行は、日本銀行に日銀当座預金という口座を持っています。

その口座に日本銀行が買い取った国債の分の金額をピピッとコンピューターで残高を増やすだけです。

すると銀行は、民間に貸し出せる資金が増えますよね?

銀行は預金準備制度の預金準備率によって、融資できる範囲が決まっています。

ここでは、銀行は預金準備制度が無ければ論理的には無限に金を発行できると知っておけば十分です。

信用創造という言葉がキーワードですね。

これが量的緩和です。

繰り返しになりますが

「日本銀行が市中に出回る国債を買い取り、

各銀行の持つ日銀当座預金の残高を増やす」

ということの意味が理解できたかと思います。

でも銀行の貸出が増えなかったら?

量的緩和で晴れて貸し出せる量が増えた各銀行は、貸出に奔走します。

でも民間はお金を借りようとしません。

なぜ企業も個人も借りないのでしょうか?

企業が銀行から金を借りる時は「儲かる時」です。

つまり、企業は設備投資をする際には通常、銀行からの融資で資金調達をしますが、経営者が儲からないと判断してるのにもかかわらず融資を受けることはまずあり得ないということです。

では個人はどうなのか?

マイナス金利導入もあって富裕層向けマンションや駅前ワンルームなどは、調子が良いですが、中間層のマイホーム購入は依然として少ないままです。

マイナス金利のために収益物件に関しては非常に借りやすいですが、多くの一般人は給料も下がったまま、メディアに年金問題の恐怖も煽られ、消費よりも貯蓄に意識が向いているというのが現状のようです。

実質賃金推移

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貯蓄率

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普通に考えれば、

景気も良くなりそうもないし、給料も上がらないし、家買ってリストラされたらヤバいし、子供もにも金かかるし、年金なんか貰えないかもしれないし、とりあえず貯金しとこ」

と、理由はどうあれ、先行き不安だからとりあえず預貯金をするというのが一般的な感覚です。

リスクを取って投資など出来る人のほうが変わってると言わざるを得ないのです。

需要が増えないのは誰も消費しないから

これまでの日銀の金融政策だけでは、消費増税で日本政府から足を引っ張られたことを差し引いても、デフレ脱却には足りなかったんじゃないかと思います。

8%の消費増税がなかったとしても、インフレ率は今ほど悪くないという程度しか一般国民は感じないはずです。

というのも、需要それ自体は創出されていませんから、量的緩和の効果は緩やかにならざるを得ません。

先ほども書いたように、量的緩和だけでは日銀当座預金残高が増えるだけで実際に、投資や消費に使われなければ物価は上がりません。

財政政策と金融政策という両輪がなければ失われた20年は返ってこないのです。

大体、常識から言っても20年間もデフレ脱却できなかったのに片輪だけで大丈夫という発想そのものに驚愕します。

誰でもお金が少なければ大してお金を使えません。

生活に占める消費の割合は当然高くなり節約志向になることは自明です。

個人は当然使わない、企業も投資をしない、では誰が金を使うのでしょうか?

誰もが消費をしない時に需要を創出できるのは、通貨発行権を持つ政府しかありません。

通貨発行権を持つ政府にデフレ期の「無駄遣い」などありません。

むしろ無駄遣いをしてくれなければ国民に所得は移転しません。

つまり政府の財政出動は以下の流れで所得が移転し最終的には国民の家計に入っていくのです。

  1. 政府の国債発行(建設国債あるいは特例公債)
  2. 国債を民間が購入し、現金が政府に入る。
  3. 政府がその資金を使い民間業者に発注
  4. 民間業者に資金が移転する。
  5. 民間業者が儲かり従業員の賃金となる。従業員の賃金が上がっていき、消費に回る。
  6. ここで民間が貯蓄のみに回らないように好況感が出せれば尚良いことになります。
  7. 繰り返し

乱暴に書いていますが、大まかにはこのような流れで需要は増えていきインフレ率も上がっていきます。

政府が気にするべきは、プライマリーバランスの黒字化などではなく、財政出動と金融緩和によるインフレ率を気にするべきで、政府の負債などはインフレに移行すれば、税収は勝手に上がります。

バブル熱が加速すれば、金融引締めと増税、国債を発行しなければ、消費は落ち着きます。

またここでの問題は、発注された民間業者が外資系でないことが重要です。

外資であれば株主の配当が多くなるだけで従業員の賃金が上がることはありません。

かつては指名競争入札でしたが現在は、一般競争入札となっていますので、低い工費を提示できる業者が落札できるというシステムになっていますので、外資のほうが有利であることは否めません。

このように自由競争は聞こえは良いものの、今強い者が必ず勝つ仕組みになっていますので自由でもなんでもないのです。

財政出動と金融緩和を同時にしても、ここまで欧米に食い物にされているので最早効果はないかもしれませんが、しかし、ポール・クルーグマンやジョセフ・スティグリッツも言うように、財政政策はやらない理由はないのです。

国が無駄遣いをするな!とか政府の経費削減を求めルサンチマンに走るよりも、問題をしっかり認識することが必要です。

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