企業を腐らせる”短期主義”が社会に及ぼす影響

我が国の株式市場での取引の7割は外国人です。

SONYは株式の過半数以上が外国人となっています。

だから何なの?と思うかもしれませんが、これは非常に由々しき事態と私は考えています。

我が国はデフレが20年以上続いており、国民の所得は横ばいあるいは下がっているという時代が今もなお続いております。

この事実と、金融の自由化、グローバリゼーションは密接に関わっており、また日本企業が外資の食い物にされていき、いずれはその企業の生産能力がなくなり、社会的な役割をも果たせなくなる可能性まであるのです。

この記事ではその辺りを考えてみたいと思います。

短期利益至上主義

東芝の粉飾決算事件は記憶に新しいと思います。

当時の新聞には、「短期利益至上主義」という言葉が踊っていました。

短期利益至上主義というのは、「四半期」ごと、つまり3ヶ月で結果を出すということです。

3ヶ月で結果を出すということは、その3ヶ月の間にできるだけ多くの利益を生み出すということなので、企業は必ずコストカットを徹底せざるを得なくなります。

主に人件費がカットの対象になります。

一番簡単ですし、東芝は7800人、SONYは17年間で7万人以上の技術者をカットしました。

これで利益は増やすことが出来たでしょう。

しかし、その利益は誰に入ったのでしょうか?

コストカットが徹底され、生み出された利益は「株主」に入りました。

グローバリゼーション以前は、企業が儲かれば従業員の給料も上がるので、従業員としても

「会社のために」といった忠誠心などのロイヤリティは存在していたことでしょう。

しかし、グローバリゼーションが推し進められ、外資規制が無くなった今、外国人株主が日本企業への投資が出来るようになったことで、外国人株主は「自己の」利益のために、投資先の企業に利益を増やすための圧力を掛けることになったのです。

企業の利益は純利益を増やし株価を上げて役員の報酬を増やすこと

投資家の利益は自分の配当を増やすこと

従業員の利益は、自己の賃金が上がること

 

これは同時に二つまでしか達成できないトリレンマです。

株主としてはコストカットとROE(株主資本利益率)の改善を強く要求すれば、投資先の企業の”自己資本を減らす”という方法でも、ROEの改善はできるので、企業の内部留保を株主に対して還元することができるようになります。

企業は、自社株買いで株価を上げることができ、役員はストックオプションの行使で利益を確保することができますが、従業員のストックオプションが役員より多く持っていることなど極めて少ないはずです。

ストックオプションとは新株予約権のことで、予め定めた株価でその企業の株式を購入できる権利のことを指します。

従業員としては勤めている会社が「最大の利益」と銘打たれても特に自己の給料は上がらないという現実を突き付けられます。

基本的に従業員の給料は、使用者が決めるものですからパワーバランスとしては圧倒的な差が生まれているといった状況なのです。

更に問題なのは、利益を押し潰す中長期的な投資がされにくくなるということです。

中長期的な投資とはどのようなものでしょうか?

例えば、「技術開発」、「人材開発」、「設備投資」となります。

これらの投資は、従業員の生産性向上の為に行う投資となりますが、これらの投資は「短期利益を圧迫」します。

短期利益を圧迫することは株主にとっては不都合です。

不都合だから止めろと圧力を掛けることができます。

これが繰り返されると当然、製品の品質も低下していくことになるでしょうし、新しい製品の品質にも影響していくはずです。

個人的にSONYの製品に魅力のあるものは今後無くなっていくのだと感じていますし、実際最近、魅力的な商品を見てません。更に壊れやすくなったと感じています。

それまで、SONYや東芝、Panasonic等の製品の保証書は無くしても別に保証期間中に壊れるということは想定していなかったので、保証書など使うことなどありませんでしたが、最近は買ったとしても保証書の保管をきっちり行うようになりました。

グローバリズムが日本企業を腐らせた

これは、96年の金融ビッグバンからの規制緩和、自由化、民営化、外資規制の撤廃などの構造改革によって引き起こされたと私は感じています。

一言で言えば「グローバリズムの影響」が大きいということです。

投資家は基本的にグローバリストですから、国境を意識しません。

どこに投資すれば儲かるか?」それのみを考えます。

今、儲かりそうなところに資金が集中します。

では、「もう儲からない」と判断された場合はどうなるのでしょうか?

当然、「次の投資先」を探し、資金が引き上げられ、次の投資先に資金が移されます。

「しゃぶり尽くされて味が出なくなったら捨てられる」

ということです。

その頃の企業には、それまで短期利益至上主義で経営を行い、技術やノウハウ、品質は格段に落ちている魅力の無い企業となっていることでしょう。

そんな企業に資金を融通する機関や個人はあるのでしょうか?

ここから復活するのは至難の業です。

短期利益至上主義でこのような結果になることは明らかです。

しかし、一般的にはこのようなことは語られません。

なぜなら、「グローバリゼーションは善」と思考停止的に信じている人が大多数だからです。

また、MBAやビジネススクールではこれらの考え方を正しいとします。

所有と経営の分離という考え方も、裏を返せば従業員は費用であることを暗に言っている考え方です。

所有と経営の分離の社会的影響とは?

企業の参謀役になる人員は基本的にMBAやビジネススクールで学んだ経験のある人物が配置される傾向にあるために、そこで教わったことを実践することになります。

そのため、如何に短期で利益を上げるかということを、企業の方向性として促すことに繋がります。

一般的には、アメリカでMBAを取得しました、ハーバードビジネススクールで学んできましたとなれば、凄い人というイメージになるようですが、この知識が、現在の短期利益至上主義を生んだと考えると非常に皮肉な話です。

結局、MBAや現在の企業経営理論が誰にとって有益なのか?ということです。

投資家からしてみれば有益でしょう。

しかし、一般の従業員からしてみれば不利益この上ないことです。

間に挟まれた企業は、どっちにつくかという選択に迫られます。

資本主義なんだから、企業は株主のものなんだからと株主におもねることは正しい選択に見えますが、それでもやっていることは「従業員の犠牲」を受け入れたということです。

所有と経営の分離という概念も欧米から入ってきた考え方です。

経営者が、企業は株主だけのものではないと突っぱねることだって私は別に良いと思いますし、正に、「日本的経営」を実現すれば良い思います。

欧米が言っていることが全て正しいわけではありません。

ハーバードで教わる知識が全て正しいわけでもありません。

仮に正しいのであれば、アメリカの現状はどう説明するのでしょうかという話になります。

トランプ大統領のような人間が支持されるはずがないのです。

日本企業はかつての自信をなくしています。

その中で、敗戦国の国民よろしくアメリカ様の考え方が正しいと思考停止的に思っているだけです。

日本企業に自信がなくなったのは、デフレが原因であって多くの原因を占めています。

個別の原因もあるでしょうが、大元には「デフレ」があるのです。

デフレだから、海外の需要を取り込むという発想になるのです。

日本に需要があれば日本で売るはずです。

日本に需要がない上に人件費も高いから、海外で作って、作ったものを、日本に安い価格で逆輸入することで、またデフレが加速するという悪循環が現在のデフレ固定化の一端を担ってきたのです。

このような状態で新しい技術などの”イノベーション”など起きるのでしょうか?

日本でイノベーションは起きない

イノベーションとは技術革新のことですが、”短期利益至上主義”で技術革新が起きるのでしょうか?

まず起きないでしょう。

イノベーションという言葉が語られる時、大抵シリコンバレーが同時に語られます。

コンサルタントはこのシリコンバレーが大好きです。

よく、

シリコンバレーではベンチャー企業がイノベーションを起こしているのに、日本ではそのような環境がない」

といった議論です。

その上で、日本の構造がおかしいから、変えろといった構造改革論に繋がり日本のアメリカ化を助長するといった構図です。

私に言わせれば、バカなんじゃないかな?と思うレベルです。

この議論を聞いてるとあたかも、「シリコンバレーでは、エネルギッシュな若い起業家が、ベンチャー企業を設立してベンチャーキャピタルから投資を受けて、イノベーションを起こした」というようなことを言っているように聞こえます。

おそらく、AppleやFace Book、アドビシステムズ、オラクルなどのイメージが強いのでしょうが、元々、シリコンバレーの企業には、アメリカ政府の資金が大量に入っています。

80年代のシリコンバレーにはミサイル、衛生、電子技術などの軍事関連の企業が多数立地しており、それらの産業の収入の3割が防衛関連の政府契約によるものでした。

さらに、アメリカ国防総省はスタンフォード大学やバークレー校などに強力な研究開発支援を行い、新たなイノベーションのシーズとなったのです。

また、50年代に設立されたSBICというリスクマネーの供給を目的とする政府機関の存在も非常に大きいはずです。

もちろん設立の目的はベンチャー振興ではなく”軍事”だったのです。

アメリカのこれまでの歴史を見れば当然です。当時は冷戦が始まったばかりで、ソ連とアメリカは技術開発にしのぎを削っていましたから。

そもそも、短期利益至上主義でイノベーションが起こるはずもないのです。

R&Dに対する投資を削ります、研究開発も短期で成果を出してくださいとはあまりに無茶というものです。

因みに我が国の大学にもそのような要請が強まってきていますので、我が国のアカデミズムは終焉に向かっていくことになり、ノーベル賞も取れなくなるでしょう。

更に言えば、これは本当に知られていないことのようですが、シリコンバレーでイノベーションが起きたとされる技術の中には、「イスラエル」からただ買ってきたものが非常に多いということです。

私の知人にイスラエルで長いこと滞在し、現地のIT関連企業に就職している方がおり、その方から聞いた話ですが、実はイスラエルで主に私達のイメージするイノベーションが起こされ、その技術を買い、事業化するのがシリコンバレーだということだと言うのです。

その方が言うにはこのイスラエルの技術開発には、ロスチャイルド系企業の資金が大量に入っているということでした。

ロスチャイルド系企業となれば国家よりも力があるのでは?と感じますし、実際あるでしょう。

このようにアメリカの真似をしたからとて、イノベーションが起こるわけでもなく、ベンチャー企業が増えるわけでもないのです。

政府の支援が大きいという事実は揺るぎない事実のようですから、勘違いしているコンサルタントはあまりいい加減なことを言わないで欲しいと切に願っています。

一般的なイメージは

シリコンバレーのイノベーションを起こすベンチャー企業の集積は、アメリカの自由市場、自由競争の産物である」

でしょう。

アメリカではそんなに開業しているのかぁと思って、開業率の推移を見てみると開業率は下がっています。

ついでに廃業率は上がっています。

アメリカ開業率

http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/h26/html/b3_2_1_3.html

私が考えるに、イノベーションを起こしたいのであれば、短期主義を長期主義にシフトした上で、R&D、技術開発投資を積極的に行い、終身雇用制度を導入した上で、内部や外部とのコミュニケーションを密にした方がよっぽどイノベーションは起きるでしょう。

政府も企業の技術開発投資の支援を積極的に行えば、どこかでイノベーションのひとつやふたつ起こります。

財政問題など本当はないのですから出来るはずです。

またハイパーインフレになるとか、財政破綻が起こるとか言われるのでしょうがもうああいった手合と話すのは時間の無駄です。

まとめ

企業がグローバリズムを前提に短期主義に陥ることによって、以下のような弊害が生じます。

「労働者が貧困化する」

「製品の品質が落ちる」

「中長期の投資が行われなくなり企業そのものの能力が落ちていく」

この記事で書いているのはこれらのことです。

ミクロに視点をシフトしたらもっと多くの事柄が見つかるでしょう。

例えば、従業員のモチベーションや、労働組合の存在意義など探せばいくらでも出てくるでしょう。

こういったことが発生する根本的な原因は私には

金融主導の資本主義」に見えます。

恐らくそうでしょうし、はっきり言えば確信レベルです。

金融というバーチャルな要素が、社会を壊していく様をリアルタイムで私たちは見せられているのです。

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