トランプ氏が大統領に就任してからいくらか月日が経ちましたが、世界情勢は混沌としているようです。
またトランプ大統領の就任前の演説における政策と、就任後の政策には乖離が見え始めていると言われているようでもあります。
ところで、アメリカ大統領が新たに就任されると、必ず発表されるレポート、「グローバルトレンド」を確認していたのですが、私自身が確認していただけで記事にはしていませんでした。
というのも、何と言うかこのブログを御覧になる方にとっては、「当たり前だろ」としか思えないような内容だったので、記事にするかは正直微妙な感覚だったのです。
とは言え、よくよく考えてみればそういった当たり前のことから大事なことが見つかったり、気付きを与えてくれるものでもあるので、今回記事にしてみたいと思います。
我が国では関心の薄い資料ではありますが、そもそも関心が薄いことが問題ですので、少しでも多くの人が気付いてくれれば良いと思います。
因みに国会議員ですら知らない資料のようです。
先日地元の国会議員に事務所で聞いてみたところどうやら認識されていないみたいです
グローバルトレンド2035とは?
グローバルトレンドというのは、米国の国家情報会議が97年から4年に1回、今後20年間の動向を幾つかのシナリオに分けたり、不確実性がどのような影響を世界に与えるかを考えたレポートであり、ビジョンです。
4年に1回ということは新たな大統領の為に作られるということになります。
以前の記事でも少し触れています。
グローバルトレンド2030においては、我が国にとって非常に衝撃的なシナリオが設定されていました。
アメリカにとって最善のシナリオも最悪のシナリオも、日本にとってはどっちも最悪のシナリオでありました。
詳しくはリンクから確認していただければと思います。
要するに、グローバルトレンドというものは、その後20年間のアメリカのビジョンと、端的に言えると思います。
ここで勘違いしてはならないのは、実際にこのアメリカ国家情報会議のビジョンが的中するかどうかではなく、「アメリカはこれらのシナリオに沿って戦略、計画を組み立ててくる」ということです。
わざわざ公開してくれていますので、見ない手はありません。
もちろん、表向きのビジョンという見方もありますから、グローバルトレンドで発表されているビジョンの内容から踏み込んでそのビジョンの裏にある戦略というのも、考えていくことが肝要かと思います。
”2035”進歩のパラドックス
今回のグローバルトレンドは2035ということで、メインレポートに”進歩のパラドックス”という表題がついています。
詳しくは、ご覧になっていただければと思いますが、最初の一文にはこうあります。
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We are living a paradox: The achievements of the industrial and information ages are shaping a world to come that is both more dangerous and richer with opportunity than ever before.
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私たちはパラドックスに暮らしています。産業と情報の時代の業績は、これまで以上に機会を増やすことで、より危険で豊かな世界を作り出しています。約束か危険かが、人類の選択を可能にするかどうか。
次に以下の一文です。
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The next five years will see rising tensions within and between countries.
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今後5年間で、国家間および国家間の緊張の高まりが見えます。
と、序文でこのような悲観的な評価を与えています。
アメリカ国家情報会議も「グローバル化」それ自体が、グローバルな成長を阻害する認識を示しています。
パラドックスの中に生きているという認識は、その通りといった感覚ですし、パラダイム・シフトの中で私達は生活しているということになります。
時代の変わり目であれば一定の混乱は避けられません。
1815、1919、1945、1989の年が世界の変わり目、つまり覇権が交代した年、即ち秩序が変更された年ですが、それらとは本質的に違う緊張が国家間に発生するといった印象を受けます。
そして、それらの問題に対応する方策として、3つの選択肢を用意しています。
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Whether the next five or 20 years are brighter―or darker―will turn on three choices: How will individuals, groups, and governments renegotiate their expectations of one another to create political order in an era of empowered individuals and rapidly changing economies?
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次の5年または20年が明るくなるか暗くなるかという3つの選択肢が生まれます。
要約すると
①個人・グループ・国家が力をもった個人との政治的秩序と急速な経済の変化を作るために、お互いの期待を擦り合わせるか
②主要国家の権限は、個人や団体と同様に、国際協力と競争の新しいパターンやアーキテクチャをどの程度創造するか
③気候変動や変革技術のような多面的な地球規模の問題について、政府、団体、個人がどの程度、準備しているか
となります。
漠然としていますが、私には
「これまでよりも更に構造的変換(構造改革)が求められる」
と言っているような気がしてなりません。
アメリカとしては、日本はこのまま属国としていてくれたほうが良いのでしょうから、一方の日本の立場からしてみれば、これまで通りアメリカ追従路線をせざるを得ないでしょう。
そもそも我が国に主体的なビジョンなどありません。
東アジアについてのビジョン
今後5年間で、安全保障リスクは高まると判断しています。
当然、このレポートが発表される前から中国の尖閣諸島の問題や、東シナ海等の問題はあったわけですから、特段驚くこともありませんが、問題は言及の中心はやはり、「中国」であるということです。
少しびっくりしたのは次の文章です。
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ますます自立している日本は、東南アジアを中心とした堅固な経済関係を構築することにより、地域安全保障への関与を高め、米国の強固なパートナーになる可能性がある、東アジアにおける成長の不確実性は、主に中国の力強さと主張によるものであり、戦後の安全保障政策の制約を緩和し、共同防衛政策の能力を築くことを促している。
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日本に対する配慮なのか「自立している日本」という文言がありますが、これはアメリカ自身が、
「東アジアの安全保障問題に首を突っ込む気はない」ということを表明しているのとほぼほぼ同じ意味になります。
更に言えば、アメリカが日本に対し、「このようにしろ」といった”指示”に見えなくもありません。
そもそも我が国は自立していませんので、ここへ来て日本の安全保障リスクが高まったと同時にアメリカの衰退、中国の台頭、安全保障を戦後アメリカに頼り切っていたツケが回ってきたと言っても過言ではないでしょう。
この一文はそれぐらいに重要な一文だと私は感じます。
なぜなら、アメリカ自身がオフショアバランシング戦略を取ると言っているにも等しいからです。
これでも「日米同盟の強化が重要だ」と言える人達はもうずっと言ってて下さいと呆れて言うしかありません。アメリカにそんな気はないのですから。
大体、アメリカにとって日米同盟の強化がどれほどメリットあるんですかということですから、現状を考えればデメリットの方が多いと思うに決まっています。
と言うよりも、オフショアバランシング戦略を取ると表明してくれているという意味を考えるべきでしょう。
中国の秩序が新たな東アジアの秩序になることをグローバルトレンドは暗に示唆しています。
3つのシナリオが教えるもの
今回のグローバルトレンドでは以下の3つの不確実性から「全国、地域、共同体」レベルでシナリオを想定しています。
1. 各国のダイナミクス
政府と市民が互いの期待をどのように再交渉し、権限のある個人と急速に変化する経済によって特徴づけられる高度な変化の時代に政治秩序を作り出すか。
2. 国間のダイナミックス
主要な権限は、選択されたグループや個人と一緒に、どのように競争と協力のパターンを作り出すか。
3. 長期的、短期的なトレードオフ
短期的には、気候変動や変革技術などの複雑な地球規模問題について、州や他の主体がどの程度まで準備するのか。
詳しくはリンクから確認していただければ良いと思いますが、グローバリズムの停滞と保護主義的な政策が行われる可能性を示唆しているようです。
解釈はゴマンと出てくるかと思いますが、これらのシナリオと同時に、
「シナリオが教えるもの レジリエンスを通じて機会を育む」として、
「保護主義と国家主義の政策を採用するようないくつかの政府を推進するグローバリゼーションの欠点は、地方レベルで回復力とイノベーションを高める機会を創出するかもしれない。」
としていることは、地方創生を考える上では重要な一文です。
この一文をどれほど単純に観たとしても、
”グローバリゼーションは地方創生には寄与しない可能性がある”と読めるからです。
私は生まれも育ちも東京ですが、ルーツは新潟県村上市です。
海も山も川も温泉もあり、スキー場もあり食事も最高です。
何より、住民が優しいです。
しかし非常に過疎が進んでいる地域でもあります。
帰る度に、悔しく悲しい気持ちになります。
話を戻しますがレジリエンスという言葉には「強靭な」といった固い強さではなくしなやかな柔らかい強さという意味を持ちます。
こんにゃくのように衝撃を吸収し、元に戻るといったようなイメージです。
その中に「インフラストラクチャー」もグローバルトレンドは含めて考えています。
これらを踏まえて3つのシナリオが教えるものを考えると、非常に難しいですが私には、
「過ぎたるは及ばざるが如し」
と教えられている気がするのです。
共通通貨ユーロの失敗、イギリスのEU離脱、トランプ大統領の誕生、規制緩和、構造改革によるデフレ長期化政策、緊縮財政など挙げればキリがありませんが、ネガティブな結果が教えることに真剣にまた、素直に向き合うことだということです。
「増税して国民が貧困になってしまった。だったら減税しよう」
というこのレベルです。
構造改革をしても日本経済が成長しないのは、「構造改革が足りないからだ」と推進し続けた結果が現在の状態ですから、もっと素直に現実を観れば対策は簡単なはずです。
まとめ
中々、まとめられないですがこのグローバルトレンド2035を読んでひとつ言えることは、
「次世代の日本人にバカにされるんだろう」
ということです。
先の大東亜戦争も後知恵で考えれば「無謀な戦争」とか「最悪な判断」だと簡単に言えてしまいます。
当然、その時その時で様々な「力学」が働いているので正しい方向には行きづらいはずです。
何かを判断する上で、うまくいかなくても人はそれまでとは違う考え方に対してそれ以上の”リスク”として認識するので、それまでと同じ行動を取り続けます。
構造改革路線は正にそれなのです。
グローバルトレンドが教えてくれることは、読む人によって様々に解釈が分かれるだろうと思いますが、一番大事なことは「素直に」読むことだと私は思うのです。
余談ですが経済産業省のグローバルトレンドはこちらになります。