物流業界は他業種よりも2割から3割労働者の労働時間が長くなっています。
いわゆる36協定の限度基準の適用がないトラックドライバーの労働時間は劣悪な環境で日々の業務にあたっていたりします。
トラック業界における長時間労働の 抑制に向けた取組について 資料2 抑制に向けた取組について 厚生労働省労働基準局
私が考えるトラックドライバーの労働環境がここまで劣悪な原因とは以下の理由が大きいと考えています。
長期化するデフレ
安全保障分野の業界であること
規制の少なさ
利用運送の多さ
高速料金の高さ
燃料第の高騰
これらに原因があると考えています。
また、20兆円市場という大きな市場にも関わらずトラックドライバーの賃金まで還元されないことの背景には荷主のコスト削減競争、ひいてはグローバリゼーションにあると私は考えています。
原因をひとつづつ観ていきます。
長期化するデフレ
バブル崩壊後、橋本政権を皮切りにデフレに陥り失われた20年に突入しました。
この長い不況下で、各企業は「コストカット」を重視し、産業の末端である物流業界にしわ寄せがいったと考えられます。
考えるまでもないことですが、売上が上がらなくなると企業は売上を伸ばすことよりも、「コストを抑えること」により強い力が働きます。
なぜならば、以下の理由があるからです。
「利益確保に対して即効性がある」
「売上を上げる為の活動より早く効果が出る」
「銀行は”利益が上がっていることよりも””利益が下がっていることに視点がいく”」
こういった事情、理由があります。
これは荷主である企業でもそうですが、物流業界の企業、配送業者も同じことが言えるのです。
配送業者の立場も、荷主がコストを抑える方向に舵取りをすれば、安い運賃でかつ、それまでよりも拡大したサービスを提供し価格競争を強いられます。
規制の少なさ、利用運送の多さ
競争激化という背景がある中で、「規制緩和」が行われ、更に競争が激化するという目も当てられない事態になったのです。
その上、荷主企業はさらなるコストカット政策を推進し続け有名な「ジャストインタイム方式」を導入しました。
いわゆる「トヨタ方式」と呼ばれるもので、「必要なものを、必要な時に、必要な分だけ」という政策です。
在庫コストを軽減する為の企業の政策ということになるわけですが、この方式が産業の末端である物流業界を圧迫することになりました。
上記の記事にも書きましたが、「利用運送」いわゆる仲介屋の存在が実運送業者の運賃を圧迫しました。
仕事を右から左へ流すだけで売上が発生するわけですから、うまくいけば非常に効率的な結果を生み出します。
しかし、この仲介屋が3社4社と入っていけば、入った企業の分だけ運賃が下がるということになるわけです
私はこの利用運送業務についてはある程度の規制が必要であると考えています。
例えば、以下のような規制です。
「利用運送事業が可能な運送業者の適格要件の強化」
「実運送業者が契約内容(運賃等)の開示を利用運送事業者に対して求めた時に客観的資料を含めた資料提供の義務化」
「利用運送事業が可能な運送業者の適格要件の強化」
ーーーーーーーーーーー以下参考:貨物利用運送事業を始めるには?から引用ーーーーーーーーーーーー
1.事業遂行に必要な施設
自ら運送を行わないとは言え、施設について以下の要件を満たさなければなりません。しかし、それほど大規模な施設が必要になるわけではありませんので、比較的要件は緩いと言えます。
1. 使用権限のある営業所、事務所、店舗を有していること
2. 営業所、事務所、店舗が都市計画法等関係法令(農地法、建築基準法等)の規定に抵触しないこと
3. 保管施設を必要とする場合は、使用権限のある保管施設を有していること
4. 保管施設が都市計画法等関係法令(農地法、建築基準法等)の規定に抵触しないこと
5. 保管施設の規模、構造、設備が適切なものであること
2.財産的基礎
次に財産的基礎として、一定の資産を保有していることが必要になります。具体的には純資産300万円(※)以上を有していなければなりません。
※純資産=純資産-創業費その他の繰延資産・営業権-総負債
3.経営主体
また、登録しようとする事業者が、貨物利用運送事業法第6条第1項第1号から第5号に規定する登録拒否要件に該当している場合には登録を受けることはできません。
ここで細かくは列挙しませんが、一定の刑罰を受けたり、利用運送事業に関する不正をしてから2年以内の人などは登録を受けられません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー引用終わりーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このように決して厳格な適格要件とは言えません。
適格要件が緩いということは、参入しやすいということなので、末端の運賃を圧迫する作用を生んでしまいます。
次に、「実運送業者が契約内容(運賃等)の開示を利用運送事業者に対して求めた時に客観的資料を含めた資料提供の義務化(罰則付き)」ですが、これは要は、
「利用運送事業者が、実運送事業者に「いくら抜いてますか?」と聞かれた時には客観的資料を提供した上で答えなければならない。それができない場合には罰則を受ける」
ということです。
中には、ガッツリ抜く利用運送事業者もいますので、こういった規制がなければ実運送事業者の運賃はいつまでも低く、劣悪な環境が維持されてしまいます。
市場原理に適さない業界であること
次に市場原理に適さない業界ということですが、厳密に言えば市場原理に適さないというのではなく、市場原理という価値観以上に、物流という業種には重要な役割があるということです。
物流業界における努力や品質とは、「ドライバーの接客態度、言葉遣い」や「厳密な配送時間」、「早急な対応」といった「人間の活動」であり、「新しいテクノロジーの提供」というものでは基本的にはありません。
更に、配送会社が生産性を上げるための一般道路の整備や高速道路の増設は各企業、各々の力でできるものではなく政治の問題になります。
またトラックを走らせるための燃料は独自のエネルギー政策をアメリカから禁じられているようなものなので、言うまでもありませんが、石油メジャーの都合で燃料費が増減してしまいます。
本来であれば、物流は安全保障の分野でありますし、産業の血液と言える物流にはせめて中東有事の際には燃料費や高速道路利用に対する補助金を出すなりすべきことです。
しかし、我が国は独自のエネルギー政策はできない上に、デフレの中、グローバリズムに伴う緊縮財政をし続けてきた為に物流業界の労働環境は最悪、低賃金といったことになったのです。
日本の高速道路料金の高さは世界一です。
なぜ日本の高速道路料金が世界一高いのかといった考察は様々あるようですが、肝心なことには触れられていません。
高速道路建設は政治問題です。
いわゆる国の借金問題ですがこれは完全なデマであり、財務省のプロパガンダです。
財政破綻を煽っていた財務省が「日本は財政破綻しない」という矛盾
高速道路建設についてB/C(費用対効果)を訴える識者もいますが、実にナンセンスなことです。
高速道路は国民の物流安全保障なので、B/Cなどを考えたらその時の経済情勢と財務省をはじめとするあらゆる勢力のプロパガンダで、「緊縮」の方向に向かうことになります。
現実にこれまでそうなったからこそ、都市部ばかり高速道路が建設され、地方ではトンネルが崩れたり道路がボロボロになったりしているのです。
燃料費の高騰
日本は石油エネルギーを輸入することで自国のエネルギー需要を賄っています。
もちろん日本の領土内での油田はありますが、それは中東やアメリカ大陸に比べると微々たるものですし、「微々たるものでなければいけない」のです。
それが「敗戦国」ということであり、植民地であることの宿命だということです。
いつぞや話題になったメタンハイドレートも、「水が燃える」という事実も、八橋油田も、全く国家のエネルギー政策として国民の目にわかるようにはなっていないのです。
水と空気で走れる電気自動車が2017年頃にルノー・日産から実用化の見通し
日本人がこういったことに気付いて行動しない限り、物流業界に限らず日本人はいつまでも高い燃料を購入し続け、石油メジャーの言いなりになるのです。
中国と国交正常化し独自のエネルギー政策をしようとした、田中角栄はヘンリー・キッシンジャーによってでっち上げられたロッキード事件で失脚させられ、ロシア内のエネルギーに注目した鈴木宗男氏も事件を起こされ逮捕されました。
どちらも、GHQが設立した隠匿退蔵物資事件捜査部を前身とする東京地検特捜部が逮捕しています。
石油エネルギーを消費して、政治を通して作られた道路を利用して物を運ぶ物流業界というのは、本来は非常に政治的であるはずですがあまり政治活動をしているといったイメージはありません。
してはいるようですが、あまり結果に結びついてはいないというのが現状のようです。
しかし、こういった要請が通り法制化したとしてもTPPによって緩和の方向に向かうかもしれません。
それほどTPPやEPAなどの条約は強力なのです。
そして、国内のみの配送を前提にしている配送業者に自由貿易の恩恵は受けられません。
最大の原因はグローバリゼーションにあります。
説明はグローバリズムカテゴリにある記事を参照していただければと思います。
産業から配送業務は常に「コスト」として見られてきました。
今後もその認識は変わらないでしょう。
物流をコストとしてだけではなく、「生産」、「サービス」として理解しているのはAmazonくらいのものです。
現在は低賃金労働で働いてくれる労働者が減ったこともあり、また物流分野に外国人労働者が入れないことが運賃上昇の追い風となっています。
個人的に知り合いの外国人労働者から配送はしてみたいかと聞いたところでは、「字が読めない」とか「左側通行が怖い」とか「屋外で働きたくない」といった意見が多かったように思えます。
知り合い30人ほどに聞いたことなどで、情報の根拠にはなり得ませんが、彼らからしてみれば物流業界に魅力はないようです。
彼ら低賃金労働をする外国人労働者が雇用されればされるほ産業の末端である「配送」もコスト削減圧力にさらされることになります。
雇用主の考える賃金水準、コスト基準が外国人労働者と賃金となれば、それに合わせたコスト計画にならざるを得ません。
配送をサービスの一環として、高品質を求めるビジネスはそう多くはありませんし、また配送に低コストと高品質を求める図々しい荷主も多いのです。
「物を運ぶだけ」
と考えている人はいまだに多く存在します。
しかし、この考え方が生まれた背景は先ほど説明したデフレの長期化と主流派経済学を背景とする新自由主義的グローバリズムです。
輸送費はかからないという前提で作られた経済モデルがあります。
詳しくは以下の記事を参照してください。
グローバリゼーションはヒト・モノ・カネの移動の自由化です。
つまり、「自由な市場の統一化」のことです。
こ
れが経団連、経産省の言う、FTAAPでありニューワールドオーダーですが、
多角的自由貿易投資体制の再構築を求める -TPPの先を見据えて-
しかし、「よく機能する市場」とは国家の介入と自由放任の組み合わせで機能します。
つまり、グローバリゼーションという単一の自由市場は、
「国家がなければ成立しないが、国家が存在するから実現できない」
ということになるのです。
少し話が逸れましたが、物流業界の環境が改善されるためには、反グローバリズム的な政策を推進するしかありません。
具体的には、
「建設国債の発行を前提とした公共事業」
「規制の強化」
「公正取引法の一部改正(自由競争に一定の歯止めをかける)」
「雇用助成金や補助金」
と、個別の企業は、
「各企業(荷主も配送業者)の下請法、物流特殊指定のコンプライアンス意識の徹底、偽装請負の厳罰化」
これらが必要と考えます。
低賃金労働者(奴隷)不足からの運賃上昇も、不正や不当な圧力から頭打ちになってしまいます。
配送業者の適正な運賃とは、
「ドライバーが健康的に業務に従事し文化的な生活をすることができること(運転時間、拘束時間、荷扱の有無、賃金等)」
「急なトラブルで代走を用意する費用を含む」
「燃料費、車両整備費が賄える」
「配送業者の利益」
のことです。
ほとんど真逆になっている現実があります。
しかし、そういう仕事についた者の自己責任だとか、嫌なら辞めればいいとか、的はずれなことを言うバカもいます。
「なるようなる」、「しかたない」、「そういう時代だから」
といった、何もしないことの言い訳をすることはもうやめるべきです。
物流の滞りは”人の命”に関わります。
大切な家族や友人、地域を守ることは誰かに任せてはできませんが、できないようにさせたのは戦後輸入された思想である自己責任論を前提とする
「行き過ぎた個人主義」
です。