我が国はデフレ脱却に向かっています。
その突破口が運送業界にあるかもしれません。
運送業界が抱える悩み
運送業界は人手不足です。
なにしろ、元々運送ドライバーという職業は人気がなく、休憩もまともに取れない上に時間に追われ、さらに賃金もそれほど高いものではないからです。
これは、デフレが産んだ病と言っていいでしょう。
かつて、トラックドライバーというのは高所得で有名な職業でした。
しかし、デフレが深刻化してからというもの、運送業界は運賃が大幅に下がり、その影響を受けてドライバーの賃金も下がっていきました。
更に、本来運送業がすべきでない過剰なサービスも引き受けてきたのです。
また営業も採算の取れない契約を取ってくることはザラにありました。
しかし、その負担は全てドライバーにいってしまうのです。
私も現場で働いている時には、配達した荷物のダンボールを引き取らされたり、それを断れば、本社にあることないこと言われ、クレームをつけられたりしたこともありました。
上も、めんどくさいから引き取ってきちゃいなよぐらいで、基本的には事なかれ主義なのです。
その事なかれ主義の意味は、ドライバーの犠牲の上に成り立っている事を考えません。
これは我が国全体がそのような事なかれ主義という態度を貫いているように感じます。
慰安婦のことでも最終的には相手の言うことを認め、アメリカの市場開放要求も受け入れてきました。
それを決めた人間というのは、「めんどくさいから戦わない」という選択をするのです。
その選択のおかげで、国民が貧困に苦しめられます。
国民は国民でその貧困の理由を真剣に考えず、自分を責めることまで行います。
現代は、別に企業に属さずとも所得を得て経済的な自由を獲得することはかつて無いほど簡単にできます。面倒ではありますが、誰にでもできます。
ただし、これは個人レベルの話です。
話を戻しますが、運送業界はこれまでの過剰サービスが当たり前といった意識となり、その”過剰サービス”を提供しないと仕事がなくなるのではないかと思ってしまうのです。
さらに、物流は生活には欠かせない大切なインフラにも関わらず、運送業者自身に自信がないのです。
これまで荷主の言いなりになってきた事実が、彼らのマインドを奴隷マインドにしてしまったのだと思います。
経営者は仕事がなくなるより良いかと過剰サービスを提供し、現場のドライバーはクビになるより良いかと考えてそれが業界全体に拡がったのでしょう。
デフレはこういったことを生み出すのです。実に恐ろしいことです。
水増し請求を受け入れていた中小企業経営者が言うことは、「受け入れないと仕事を切られると思ったから」です。
今、人手不足の業界は、デフレではありません。
インフレに近づいています。
一刻も早く運賃が上がるようにするには業界で”協力”し値上げがいかに適正なことなのか、いかに物流が大事なことなのかを消費者に啓蒙するべきです。
何より、運送業者自身が卑屈になっていては絶対にいけません。
ドライバーを活かすも殺すも経営者次第です。
荷主は荷主で、これまでがおかしかったということを理解しなければいけません。
どうしても安い運送サービスが欲しいのであれば自社でリスクを取って投資し、安い運賃でも配送できるシステムを作り、運営すれば良いのです。
そのようなリスクも背負わず、安くしろと運送業者側に犠牲を強いてきたことがそもそも問題ですし、最早現状は、荷主への因果応報と言えます。
デフレ経済は人が人の足を引っ張るようになる経済環境です。
ルサンチマンが良い例です。
自分達が苦しいのだから、公務員も同じように苦しむべきだなどと考えるようになり、公務員削減、議員削減、緊縮財政を受け入れ、政府支出をカットすることに賛同し自分の首を締めるようになるのです。
ヤマト運輸や佐川急便は運賃を上げる方向になりましたが、私の聞くところによると、日本郵便の一部営業所では、業務委託のドライバーの配達料を削減したとのことです。
悲惨な状況になることは間違いありませんし、この状況でそんな判断を下せる支店長クラスがいかに無能なのか、今回の日本郵便の巨額損失の一旦を表しているのではないかと思います。
日本郵便に関しては散々観てきましたがとにかく協力会社は”下請け”と認識し、”仕事をくれてやってる”という意識で接していたので、これからまた更に大変なことになるのではないかと思います。
日本郵便の業務委託ドライバーも”郵政だけはやらない”という意見も多いですし、その上に配達料を下げられたら、日本郵便の仕事をやる理由などないでしょう。
これも因果応報です。
元はと言えば郵政民営化ですが、そもそも物流のような生活インフラを100%市場原理に基いて運営することが間違いです。
市場競争に負けましたとなる企業が倒産して、市場が大資本によって寡占化し、消費者がその市場を独占した企業から不当に高い物流コストで消費することにも繋がっていくでしょう。
別に、私は国営にしろと言っているのではありません。
このようなデフレの状態で、更に人手不足で国民の生活に大きく関わるサービスの供給ができないとなれば、それを解決できるのは政府しかいないのです。
ヤマト運輸の要求を呑めない企業は契約解除ということになるとの報道ですが、荷主としても値上げ分の運賃は、消費者に転嫁すべきで、仮にヤマト運輸の要求を呑まなかったところで、他の運送会社も限られているでしょうから、ヤマト運輸の要求を受け入れた上で、荷主は消費者に”値上げしたというイメージ”を持たれないような工夫をすれば良いのです。
それがマーケティング技術、セールス技術なのですから本来やるべきことをすれば良いだけということになります。
市場原理主義である以上、運送会社も利益を上げなければいけないのですが、全日本トラック協会によると運送業界の営業利益率は2012年度から2014年度まで-2.1% -2.3%、-0.9%とマイナス続きです。
それでも、なんとか運営されてきました。ですが物流業界はドライバーを犠牲にして成り立ってきたのです。
我が国でドライバーが労働環境の劣悪さを訴えても、基本的に発想が「個人」なので、「嫌ならやめろ」とか「そのような仕事にしかつけなかったお前が悪い」としか言われないでしょう。
要は「自己責任」ですが、どうしてそこまで冷たくなれるのか私にはわかりません。
確かに運送ドライバーは低学歴の人が大多数です。
それは間違いありません。
ですが、真っ当な仕事に上も下もないという基本的なこと、今の我が国では綺麗事と捉えられるはずですが、今はこういったことを思い出す時期でもあると思うのです。
私の本業は企業の問題解決です。
ですが、仕事として物販も金融も不動産も物流もやっています。
生きていくためです。
しかし、様々な仕事をやって感じることは、どの仕事も同じだということです。
「仕事が成立するように最大限の努力する」
これだけです。
分野によって、努力の方向が違うだけで、仕事の規模や金額の規模、内容の違いしかありません。
技術が発達していけばドライバーは必要無くなるかもしれませんが、現時点で運送業が自動化されることはないですし、多くの人間が、そのサービスの上に成り立っているはずです。
それを自己責任として切り捨てる発想は「選民思想」「優生主義」に繋がっていき、更には、自分の首を締めることにも繋がっていくと思うのです。
自分の周りにあるもので、物流業界に関わらなかったものなど全くと言って良いほどありません。
こういった当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃなくなるということになってしまっているのが、「今」であるということを考えるべきです。
ドライバーの代わりはいくらでもいるという時代は過ぎ去りました。
コンサルティング業務をする中で、企業はデフレ脱却を本当は望んでいないんじゃないかと思う場面が多くありますが、どうやら、”日本社会の構造”がデフレ脱却を望んでいるので、企業はこれまでのグローバル化の方向の転換を余儀なくされることになるでしょう。
しかし、それは全体にとっては良いことです。
「今だけ、金だけ、自分だけ」という新自由主義的な発想が、間違いであったことが、ここでも証明されているわけですから、企業が思考の1%だけでも「全体というもの」を考えることをするようになれば、変わっていくことになると思います。
良いサービスは高価なものです。
この常識をデフレ経済は「安くて良いは当たり前」という概念を作り出し、またそれを固定化してしまいました。
運送会社は自信と誇りを現場レベルまで浸透させることが急務です。
これまでのように下手に出る必要はありません。
あとは「勇気」を持つだけでしょう。