2016年の暮れに大手運送会社、佐川急便の配達員が配送中の荷物を叩きつけるなどをし、その様子が動画投稿サイトにアップされ、物議を醸しました。
覚えている方も多いと思いますが、これまで全くと言っていいほどフォーカスされてこなかった運送業ならびに配達員の過酷な労働環境を書いてみたいと思います。
と言うのも、私は20代前半の時に日本通運でこの仕事を下請け業者としてしていたことがありますので、その経験も踏まえてお伝えします。
配達員の一日
まず配達員は朝が早いです。
以下に一日の流れを書きます。
6:00 起床
6:40 積み込み開始
7:30 出発
8:00 配達開始(平均100程、走りっぱなし)
12:00頃には粗方朝の便は配達が終わります。ここから営業店に戻る
12:30午後の便の積み込み開始
13:20 午後便の配達開始
15:40 集荷(荷物の引き取り)開始(大体20件ほど回る)
18:00 集荷した荷物を営業店で発送
18:30 夜の便の積み込みを開始
19:00 夜の便の配達開始
20時以降の指定が多いため在宅のところは配達する。
21:00 配達終了
21:20 持ち帰った荷物の整理、配達した荷物の伝票整理、書類の記入などの配達集荷以外の事務処理。
22:30 終了
7月と12月は、1時間から2時間遅れでことが進みます。
大体このようなイメージです。
残業代はもちろん出ません。
しかし、これを見たらもっとキツいと思う配達員の方は多いと思います。
企業が多いエリアと個人宅の多いエリアとの違い
朝の便の積み込みは平均100と書きましたが、この中身が個人宅への荷物なのか、企業への荷物なのかで労力が全く違います。
個人宅の荷物は一般的に100サイズ以上の荷物が多く、平日の日中も不在なことが多いので大抵の場合持ち帰ります。
この時不在票を書くことになりますが、これが非常に手間なのです。
これは宅配ボックスがあるマンションでも同じです。
また宅配ボックスの空きがなかったり、表札が出ていないことも多いため、誤配を気にして入れられないケースも多々あります。因みに当時誤配をすると、一件数万円の違約金が課されていました。
また大口の荷主の荷物を誤配すると始末書はもちろん、一発でクビということもザラにありました。
このように個人宅と企業とで労力が全く違い、また配達料も変わらないという現状があるのです。
その上、集荷も配達も一個いくらで作業しているので、圧倒的に企業配達の方が、気持ちも楽だし、何より「楽しい」のです。
基本的に毎朝必ず行く企業というものがあります。
そこに営業をかけてその企業が荷物を出してくれるようになれば自分の収入も上がります。
企業の集配は一般的に時間がかからず、小さいサイズの荷物が出ることを見越して営業をかけているわけなので効率が良いのですが、個人宅の営業は毎回現金でのやり取りで時間も掛かるし、大抵重いという現実があります。
つまり、企業エリア担当と個人宅エリア担当でここまで違うのですから、当然この個人宅エリアは
「下請け業者」がやることになることがほとんどです。
もちろん例外はあります。
支店長クラスと下請け業者の癒着
その例外は、支店長クラスと下請け業者の経営者が癒着している場合があります。
はっきり言ってよくあるパターンです。
日本郵便は年賀状やお歳暮、お中元なども販売しており、それの販売ノルマが社員には課せられています。
そのノルマ分の商品の購入と引き換えに企業エリアをもらうということが行われます。
実際に経験したことですので間違いありません。
それも、その商品の購入は一回や二回ではありません。
何度も購入してようやく企業エリアが貰えるのです。
ついでに言えば、「良いエリアあげるから」と甘言を弄して、実際にはやらないという詐欺まがいのことまでしてきます。
だからこそ、支店長クラスは数年で転勤するのですが、近場の転勤の場合は下請け業者がその支店長を追ってそれまでの関係を継続して、転勤先での仕事をいただくいった場合もよくあります。
これは別に、運送業でなくても民間で行われていることですし、民間企業同士の取引ではよくあることですので、糾弾すべきことではありません。
しかし、日本郵便は日本郵政公社の子会社であり、日本郵政の株主構成は以下のページで明らかです。
https://www.japanpost.jp/ir/stock/index10.html
民営化とは名ばかりで、公人や公職の資本が主な出資であればその企業はすでに「民間」とは言えないのではないかと私は思います。
これで贈収賄事件にならないのであればこれはもう「脱法」という他はありません。
集配ドライバーの所得が上がらない理由
大きな原因は「デフレ経済だから」という理由が一番大きいと私は思っています。
バブル期の運送業は今とは比較にならないほど稼げたといいます。長距離トラックで月100万円なんてざらにいたし、集配ドライバーだって「取り敢えず佐川で稼いで起業する」なんてことも流行った時期もあるのです。
古株のドライバーが口を揃えて言うことが「昔はすごかった」といいます。
佐川、ヤマト、日通全ての古株ドライバーに聞きましたが当時はどこも同じような所得水準だったようです。
今でも同じですが、デフレで所得が下がりそこから上がらないことそれ自体が問題なのです。
大体ドライバーはまともに行って40~50万円ぐらいがひとつの目安となっています。
労働時間で考えれば大したことはありません。
次にデフレ経済だからという理由と関連しますが、今も尚続いている「公共事業叩き」が理由のひとつとして挙げられます。
運送業は道路を主に使います。
公共事業叩きで道路が作られないことそれ自体が、運送業者の生産性と直結します。
そりゃそうだろと思うかもしれませんが、一応説明します。
例えば今まで大型の長距離トラックが15時間かけて荷物を地方に運んでいたとします。
それが高速道路の建設や整備で、8時間で同じ場所に着くようになりました。
それまでかかっていた15時間を大きく下回り、7時間浮くようになれば、企業はそのドライバーにまた別の仕事をさせることにするでしょう。
当たり前ですよね。
つまり同じ時間でいかに多くの仕事をこなせるかで生産性は変わってきますので、運送業の場合は特に公共事業との関係が深いのです。
ところが我が国は、バブル崩壊以降ずっと公共事業悪玉論がはびこっており、いざしようとしても、「国の借金がー」という恐怖プロパガンダが大活躍していますので中々、大規模な財政出動が出来ない状況なのです。
プロパガンダについて詳しく知りたい方は以下をクリックしてください。
次の要因もデフレと関係しますが荷主が消費者に「送料無料」を特典とすることです。
これはミクロの話ではありますが、非常に関係が深いので原因のひとつとして数えられると私は考えています。
通販サイトは常に送料無料を特典としますし、消費者の方も「運送サービス」については「その程度のもの」というイメージがあります。
送料無料を謳う通販サイトは多くの場合「グローバル企業」です。つまりその通販サイトで消費されたお金は、日本国内で循環することなく、通貨を変えて他国で運用されます。
すると、その変わった(両替された)日本円は銀行に留まり、企業に資金需要がない「デフレ経済」のために、銀行は国債を買うという手段を講じざるを得なくなるのです。
日本銀行 資金循環統計
日本国内で循環しなければ、その通販サイトが得た所得は、日本国内に回らないので、国内の誰の所得にもならないので消費にも回らず、賃金が横ばいあるいは下降したまま維持されていくのです。
厚生労働省
また、その通販サイトが送料無料を謳っている以上、送料は通販サイト側の負担となりますが、通販サイトとしては安いに越したことはないとなることは必然です。
最近も佐川急便がアマゾンとの取引を中止したというニュースは記憶に新しいところです。
しかし、佐川急便が低運賃の取引を中止したところで、今度はヤマト、日本郵便から悲鳴があがっています。
https://www.bengo4.com/internet/n_5530/
大元を改善しなければ問題は解決しないのです。
一方の消費者も、送料無料となれば自分に負担は無いので「無料で運送サービスを受けている」という感覚になります。
そんな感覚になれば集配ドライバーを低く見る消費者が出てきても不思議ではありません。
通販サイトも消費者も安ければ安いほど良いという意識がデフレを深刻化させているといった側面もあるということです。
かと言って、送料が有料になれば消費者は送料無料の通販サイトで購入をするだけですし、運送業者が、運賃を一斉に上げるということも独占禁止法第3条の不当な取引制限(カルテルの禁止)が存在するためにできません。
再配達を有料にすれば良いという声もありますが、各大手が独断でそれを決意することは、リスクが大きすぎてデフレ経済で更に人手不足の現在の状況では不可能でしょう。
唯一の解決策は、日本国民がデフレマインドから脱却することと、いわゆる国の借金などのメディアの情報操作に惑わされないことが重要だと感じています。
そうなることで、日銀の設定するインフレターゲットが達成されるまで、政府は建設国債を発行してこの20年でボロボロになった高速道路や一般道路の建設やメンテナンスをして、各個人の所得が上がり、全体的な実質賃金の上昇がインフレ率を多少上回るという状態になれば理想的です。
これまで述べてきたように、大元はデフレ経済なのです。
細かい理由もあると思いますし、他の理由を否定する気はありません。
ですが、デフレ経済をなんとかできればこんなブログを書く必要もないのです。
配達員の不満
ドライバーの不満の第一と言えば恐らく「再配達」でしょう。
一回行って不在でも3回は無料で配達します。
再配達の依頼があっても、平気でいないお客さんは多いのです。
行って不在なら、それは丸ごとドライバーの損失です。
消費者がドライバーの生産性を下げる場合のひとつ目です。
次に「タワーマンション」です。
タワーマンションはそのマンションにもよりますが、まずエレベーターがサクサク来ないことが生産性を下げてしまいます。
タワーマンションの中には、そのマンションに複数の荷物があっても、一階のインターホンでまとめて呼び出すことが出来ず、一件一件、一階に降りてインターホンを押して配達しろというマンションもあります。
セキュリティが強すぎるマンションが生産性を落とします。
館内物流でもあればいいのですが、そんなことをマンションの管理会社がするはずもなく、ただただ、配達一件15分かかる作業をしている状況です。
次に、「駐車監視員制度」がドライバーの負担を大きくしています。
タワーマンションや大規模なマンションがあっても駐車場が無ければ監視員が容赦なく駐車禁止ステッカーを貼ってきます。
そうすれば、出頭すれば15000円と一点の加点、出頭しなければ15000円支払うということになります。
一日15000から二万円くらいの所得でこれをされればドライバーは怒り狂うことでしょう。
まとめ
あの佐川急便のドライバーがした行為は、集配ドライバーとしても、社会人としても言語道断であることは言うまでもないことですが、実情を知っていると100%の非難はできないといのが正直な気持ちです。
実際私もこの仕事をしていた時は、何度も妄想の中で荷物を叩きつけた記憶があります。
どんな仕事でもストレスはあります。
しかし、社会構造や経済状況が原因の問題は解決することができます。
電通の従業員の自殺問題も大きな事件ですが、報道されていない配達中に車の中で過労で死亡していた人もいたのです。
誰もが豊かになることは無理かもしれませんが、かつて一億総中流と言われていた時代に戻すことは出来るはずです。
そのためには、財界に蔓延しているグローバリズムと新自由主義的発想を止め、もっとバランスの取れた手段を講じていくことが必要です。