先日、東洋経済オンラインで、
「日本的正社員」という働き方は時代遅れだ
というタイトルの記事がありました。
電通の新入社員の方が自殺をしたという痛ましい事件がありましたが、
私の印象はようやく表沙汰になったなという印象です。
私自身、10年ほど前から仕事で電通本社ビルに出入りしていた時期があり、当時の担当者からよく残業の話を聞いていましたし、正直聞くまでもなく、見ればわかるというぐらい劣悪な環境だと感じていました。
私の当時の仕事環境も負けず劣らずの劣悪な環境でしたので、お互い大変ですねと励ましあったのを憶えています。
この記事のタイトルと内容には非常にうまい情報操作の手段が講じられていると判断しましたので、
個人的な感想も含めここに書いてみたいと思います。
民間企業が商品やサービスを売るためのマーケティングなら構いませんが、東洋経済オンラインがこういう記事を載せることは、記事それ自体がマーケットのカテゴライズである割に、政治的な誘導があるので、非常に残念に思います。
漠然としたイメージのワンフレーズを多用している
この「日本的正社員」という言葉をタイトルに入れて、これを悪と決めつける結論で締めくくっています。
そもそも「日本的正社員」て何でしょうか?
年功序列制度のことを言っているのか、終身雇用のことなのか会社に対して忠誠を誓うことなのか、
全く定義が不明です。
しかし、日本的正社員と聞くとこんなイメージを抱く人も多いのではないでしょうか。
更に記事を読み進めると、「労働市場の流動性」とか「終身雇用という既得権」、「民の善なる意識」などいかにもな言葉が多用されているのです。
これは、竹中◯蔵氏もよく使う手法です。
最近の言葉で言えば「ホワイトカラー・エグゼンプション」でしょうか?
いきなり言われてピンとくる日本人がどれだけいるのか甚だ疑問ですが、
これも何となく正しいことを言っているようなイメージだけは聞き手に残すのです。
終身雇用が良いとか悪いとか、年功序列制度が良いとか悪いとかはそもそも価値観の問題です。
良いという人もいるでしょうし悪いという人もいます。
問題は、こういった価値観の問題であることを伏せ、あたかも「現在の雇用制度は悪」という印象操作をしていることです。
誰にとって得なのか?
もちろんこの議論をしている人やメディア側には得でしょう。
仮に先程あげた、「労働市場の流動性」とか「終身雇用という既得権」、「民の善なる意識」が、彼らの言うような状態になった場合は以下のような影響が出るはずです。
労働市場の流動性が高まれば、非正規労働者が増えることは間違いありません。
経営者の立場であれば大変嬉しいことです。なぜなら人件費を削減できるわけですから。
人件費を削減できた企業やその企業の株主は利益を手にできます。
その利益を彼らの運営する投資会社に出させようというマーケティングに見えなくもありません。
終身雇用という既得権という言葉は以前、竹◯平蔵氏が言っていたことです。
彼は「正社員が最後の既得権益だ!」と言っていました。
既得権益とはそもそも何なのか?
現在ある利益を受けられる権利とでも言えばいいでしょうか。
先人が作った制度で、「誰もが安心して働けるように」という目的で作られたはずです。
ですが、「既得権益」というとそれだけが既に悪いイメージがあるのです。
私に言わせれば既得権益などビジネスのネタに過ぎず、力によって奪ったり奪われたりするものぐらいにしか見えません。
この人達はもしかしたらいずれ
「日本人であることが既得権益だ」
とでも言い出すのではないかと不安に思います。
彼らの論理を延長すればそうなります。
既得権益の善悪を判断するには、ひとつしかありません。
「農業とか医療とか新規参入がない分野で且つインフレ率が上がっている時」
かつてのソ連のように、国営の企業がインフレ率が上がっているのに生産性を上げようと努力をせず、法律に守られている状態なら既得権益は悪と言えます。
要は公共の利益に則しているかどうかです。
「民の善なる意識」も定義が不明ですが、前後の話を読んでみると
「累進課税を強化して再分配を促すと”民の善なる意識”が弱くなり、結果として経済が弱くなる」
と言いたいのかなと解釈しました。
端的に言えば、富裕層に重税を課すなということでしょう。
典型的な新自由主義に染まった物言いです。
法人税減税と消費増税のセット、トリクルダウン理論をまだ主張している雰囲気です。
これはもはや政治の話です。
結論を出さない
記事の最後には結論を出さず、モヤッとした状態で終結します。
結論が出ないまま終われば何となく、
「今の雇用環境は古いのかな~」ぐらいに留まります。
恐らくこれが狙いです。
このように読者が思うことで、今の雇用環境が正社員の人であれば、時代に乗り遅れてはいけないということで、労働規制の緩和自体が時代の流れだと、無意識にそう思わせるように仕向けられます。
欧州を観てても、米国を観ててもグローバリズムは破綻していることは明確ですし、イギリスのEU離脱もあったのにも関わらずこのような主張をするのは、自己への利益誘導あるいは、悪あがきにしか見えません。
時代に逆らっているのは彼らではないでしょうか。
このタイプの記事は「情報操作」の色合いがとても強くしかも典型的なので、ある意味良いサンプルなので例に挙げました。
東洋経済やプレジデント、ダイヤモンドなどの経済雑誌は、経営者やビジネスマンのオピニオンリーダー的なメディアになりがちです。
また、多くの日本人のビジネスマンにとって政治はビジネスのネタという認識が大半かと思われます。
そのようなメディアやビジネスマンが、単に自己の利益のために世論誘導のような記事を掲載することが、私としては非常に悲しく思いましたので、今回書かせて頂きました。